白雪の問題=憲の問題-5
「……誰?」
「梓さんは憲のお姉さん」
麻衣が聞いてきたので答える。そうか、麻衣達は知らないんだったな。
「とりあえず静かにしてね。憲、寝てるから」
足音に注意しながら、憲の部屋へと向かう。二階へと上がり、三つある部屋の左端、そこが憲の部屋だ。
そっとドアを開けると、憲がベッドで寝てるのが見えた。
「…………」
………む?
「どうした?」
何やら後ろで不穏な気配がした。振り向いてみると、高坂が梓さんに耳打ちしていた。
アタシが見た同時に慌てて離れた。怪しい……。
人間不信になったかなぁ?
「何でもないわ。さて、アタシはお茶を煎れてくるけど、飲む人いる?」
梓さんの問いに、アタシ以外の四人が頷く。
「白雪ちゃんは?」
「……いいです、アタシは」
「そう………じゃあちょっと憲の様子、ヨロシクねぇ。……ほら、独!手伝いなさい!!」
「相変わらず人使い荒いッスね……」
階段を降りていく音に紛れて、アタシがドアを開くと音がした。そっとベッドに近付く。
憲はゆっくりと寝息をたてていた。顔は熱のせいか、ちょっと赤い。起こさない様に、布団から出ていた右手を握った。
「………………白雪?」
「ゴメン……起こしちゃったか」
憲はゆっくりと首を横にふった。
「半分、起きてた…」
「そうか、具合は?」
「…大丈夫。そんなに…熱は高くない。……多分、明日には治ってるよ」
「よかった……」
ふと、少しの沈黙が流れる。アタシは気まずくなって、思わず立ってしまった。
「じ、じゃあ、アタシはこれで……」
「…………白雪」
アタシのスカートの裾を憲が掴んだ。指の力はとても弱々してくて……でも、しっかりとした意思が感じられた。
「行かないで……」
「憲……?」
「行かないで……頼むから」
……こんなに弱った憲を見たのは、初めてだった。アタシの知る憲は、いつも健康で、静かだけどしっかりとした力強さみたいな印象があった。
「わかった。何処にも行かない」
ベッドの側に座り直すと、憲はゆっくりと微笑んだ。
「……実は、俺が頼んだんだ」
「ん……何を?」
「独に……白雪を連れてきてくれ、って」
え………?
「あの日から……白雪と喋らなくなってから、寂しくて仕方なかった……」
自嘲気味に憲が笑った。憲の話は続きそうだったから、そのままアタシは耳を傾けた。
「……昨日までは、何とか耐えられた。自分でも頑固だと思う。……でも、病気って……人を本当に弱気にするよなぁ。ここで、一人で寝てたら、今まで我慢してきた寂しさが、ドッと来てさ……そしたら、白雪に会いたくて仕方なくなった……」
「………そう」
「うん。……ゴメンな、白雪。つまらない意地はってさ」
「憲は悪くないよ。アタシが悪かったんだ、あんな事言って」
「……あれは堪えたよ。白雪にとって、俺は要らないのかと思えた」
「そんなはずない!」
思わず大きい声になって、慌てて口を押さえた。病人の間近では厳禁な事だ。
「……アタシには、憲しかいないんだ。憲以外の男なんて、絶対好きになれない……!」
「そうか……じゃあ仲直りしよう」
微笑んだ憲がアタシに右手を出した。
「うん」
アタシは万感の想いで、その手を握る。話したくて……触れたくて仕方なかった。