ドラマが始まる-1
丘の上に建っている、こぎれいなイタリアンレストラン。海の見える広い窓際の白いテーブルに、夏輝と修平、向かい合って龍と真雪が座っていた。
修平が水の入ったグラスを口に持っていきながら感慨深げに言った。「お、俺たちももう30。歳くったな」
「まだまだ現役だよ、しゅうちゃん」修平の向かいに座った真雪が微笑みながら言った。
「そ」夏輝が言った。「あたしたち、今が女盛りってとこだからね」
「確かに夏輝さんはすっごく色っぽくなったよね、この頃とみに」
「龍くんこそ、口が上手になったじゃない」夏輝は笑った。
「りゅ、龍は26だろ? でも、それよりもずいぶん若く見えるな。ま、まだ十代でも通用するんじゃね?」
真雪が怪訝な顔で修平を見た。「なに、しゅうちゃん、どうしたの? 何か緊張してない? 今日はずっと……。言葉がぎこちないよ」
「そ、そうかな……」
ウェイターによって赤ワインのボトルが運ばれてきた。そして四人の前にグラスが並べられた。
テイスティングをした後龍が言った。「僕がやるよ」そしてボトルをウェイターから受け取ると、四つのグラスに手際よくつぎ分けた。
「食事の前に、言っちゃうよ、」夏輝が修平の顔を覗き込んで言った。「あのこと」
修平はにわかにそわそわし始めた。「や、やっぱメシ食ったら帰ろうか、夏輝」
「なにびくついてんの?」
「なに? どうしたの?」真雪が屈託のない表情で言った。
「ほんとにいつもの修平さんらしくないね」龍が言った。「今日はみんなの初体験13周年記念のディナーなんでしょ? いつもみたいに楽しもうよ、修平さん」
「おめでたいよね。あれから夏輝たちも、あたしたちもずっと続いているってことだもん」
「そ、そうだな……」
「乾杯しようよ」龍がワイングラスを手に取った。残りの三人もそれに倣った。
「これからもずっと幸せでいられることを祈念して、乾杯っ!」
サラダを早々に食べ尽くした修平が言った。「龍は、サラダ食うのに時間掛けるのな」
「そりゃそうだよ」夏輝が言った。「ディナーのサラダはセックスのおっぱいだ、って一緒にハワイにハネムーンで行った時真雪が言ってたでしょ。龍くんの持論だって」
「なるほど。だからか」修平は少し赤くなってスープの器を手前に引き寄せ、ペールオレンジ色をしたコーンポタージュにスプーンを浸した。
「ねえねえ、ほんとにどうしたの?」真雪が両手でほおづえをついたまま言った。「しゅうちゃん、変だよ、今日は。いつもの勢いがないよ」
「しょうがない」夏輝だった。「今日、この後、」
「お、おい、夏輝っ!」修平は慌てて夏輝の言葉を遮った。
「何よっ!」
「やっぱ、やめとこうぜ、まずいよ。こんなこと……」
「何怖じ気づいてんの? 元々あんたの願望なんだから」
「そ、そりゃそうだけどよ……」
「断られたら諦めればいいじゃない。言うだけ言ってみようよ」
「言って」真雪が微笑みながら言った。
「俺も、聞きたい」サラダをようやく食べ終わった龍も微笑んだ。
修平は夏輝の横で縮こまって顔を赤く染めていた。
夏輝が龍と真雪を交互に見ながら言った。「この後さ、ホテルで夫婦交換、やってみない?」
「えっ?!」真雪も龍も顔をこわばらせた。
「ほっ、ほらみろっ!」修平はますます身を縮めて言った。「言わんこっちゃない! ふ、二人とも、思いっきり引いてるじゃねえかっ!」
「しゅうちゃん、抱いてくれるの?」真雪は目を輝かせた。
龍も身を乗り出した。「な、夏輝さんを抱いてもいいの?」
「へ?」修平はぽかんと口を開けて、その予想外の反応をする二人を見た。
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