四人の女-35
兼田律子 三十才
因幡久美はキャバクラ ホットプレイトのママである。本業のママのことより、先日瑠璃や美成と話をした。、夜の女達のマンション兼保育所の構想で頭が一杯である。
少し暑くなった日、頭の切り替えと、何か食べるものをと家を出て、電車が下を走る道を歩いていると、渡線橋の上で一人の女が、下を見たり、上を見たり、欄干から離れたり、又欄干に近寄って遠くを見て動かなくなり、どう見ても、少し挙動不審である。
久美は少し急いで近寄ると、時々スーパーで見かける女性であった。
「奥さん、どうされました、時々スーパでお会いしますね、私今行くところです、なんか美味しい物を買って昼にしようと、一緒に行きましょう」
引っ張るようにして連れて行った。
「一緒にお昼しましょう、私の家で。誰かとおしゃべりしたい心境でしたの」
握り寿司の詰め合わせと、ケーキを買って家に連れてきた。
「ここです、どうぞ入ってください」
「昼間からですが、ビール飲みましょう、お近づきの乾杯しましょう」
少し気候が夏に向かっているので喉を通るビールが気持ちが良い。
「私は。、因幡久美、キャバクラで働いています」
「私は兼田律子です、無職です」
「何か考え事していらしたのですか、橋の上で。良かったらご相談に乗りますよ。お金ですか」
「実は、私は・・・・・」
と、訥々と話し出したことは、やはりお金の問題であった。律子は大阪北の方の生まれで、こちらも団地の造成で家と土地を売り、その金を持って、住みやすい南の地に造成されたニューグリーンに家を購入して引っ越してきた、
間もなく両親は亡くなり、多額の財産を相続をしたのだが、財産をねらった男が上手い言葉で結婚を迫り、律子も男に惚れて関係をして、婚約の指輪を交わして、いざ結婚と言うときに全財産を持ち更に律子を多額の借金の連帯保証人という二つの問題を遺して失踪してしまった。
結婚詐欺に上手く引っかかってしまたのである。連帯保証人の返済期限が迫り、家を売却する以外に方法がないとこまで追いつめられて橋の上に立っていたのである。
「そうだったの、家の処分は一寸待ちなさいね、私が調べてみるから・・・・・うちで働かないホステスって嫌い?」
「いいえ、私みたいなもので務まりますか? 久美さんのように奇麗ではありませんし、口も下手ですし」
「そんなことはないですよ、律子さん。魅力があります、きっとナンバーの中に入りますよ」
「そうでしょうか、着る物もありませんし」
「ドレスのことですか?、普通でいいですよ、一寸だけ男の目を引くようなもので、私のをお貸ししましょう、こちらへ」
久美は、律子自信の発散するオーラが男を惹き付けるものがあると見た。
多くの衣装の中から久美はこれが良いからと選んで、律子に着せて鏡の前に立たせた。髪を少し変えてみると、思いの外男を惹き付ける姿に変身した。
「わたし、変身したみたい。働いてみたい」
律子もその気になった。
二人は夕方家を出て出勤した。律子は久美が店でママと呼ばれているので、成る程その器量があると改めて感心した。
「律子さんはそのままの名前で店に出られますか、それとも何か名前を考えておられますか」
マネージャの湯浅貞治が律子に尋ねる。
「律子で結構です」
「この店はキャバクラですので、時間制のセット、一時間八千円、飲み物が付きます。その一時間のセットの間に、お客さんはエッチなことを要求されますが、それを巧みに操ってセットを追加させるか、要求を受けて、次の客の指名をとるか、そこがホステスの腕ですから、しっかりと考えて先輩達を見て参考にして頑張って下さい」
「それでは、律子さん、エリさんです、一応この子について仕事の内容を見て下さい。エリさん、お願いね」
開店すると客が三十人ぐらい入ってきた、それぞれが指名の子を呼んで客席に着く、
「律子さん、今日は七時から、演奏会があるの、そこのエステドリームのナンバーワンの瑠璃さんとこの店の事務員の麗子さん、ピアノとフルート演奏会、今日は二回目だけれど、もの凄く評判が良いの、間もなく満席になる」
「エリさんご指名」
「律子さん、行こう、頑張ってね」
「いらっしゃい、木村さん、演奏会よ、この子律子さん、新人、あたしが指導役一緒に付いて好いね?」
「両手に花、嬉しいよ」
「律子です、よろしくお願いいたします」
「綺麗な人だね、指名変えようかな」
「いいわよ、そのかわり、アレは出来ないよ」
「そうか、それは困る」
演奏会は一時間ほどで終わる。みんなが知っている歌を編曲して演奏するので、全員が合唱することが三四回あった。律子は、ピアノを弾く瑠璃が綺麗な人だ、エステで働いているのが不思議であった。フルートの麗子は事務室で挨拶はしたが、ステージで演奏をする姿は可愛らしかった。
「トイレに行くの?」
「律子さん暫く失礼ね、こちらへ木村さん」