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かりそめ
【その他 官能小説】

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かりそめ-1

 その日はクリスマスイブの夜、街は当然のごとくカップルだらけだ。都心のある駅の改札口で一人その男は立っていた。まっすぐ帰るのが何か嫌で途中下車したのだ。疲れた顔をしてコートの襟を立てる。底冷えのする寒さであった。誰かと待ち合わせをしているわけではない。最後に恋人とクリスマスを過ごしたのは二十年も前だ。それから十年は一人のクリスマスが何とも寂しいものだと感じていたが、この十年はそんな感覚もどっかに消え、気にもしなくなった。だが今夜は会社でいろいろあり、何となくこの駅で降りてしまった。普段降りない駅で降りると何か新しいことが起きるきがした。今年で49歳になった。自分ではもう賞味期限の切れた男だと思ってはいた。

 駅から一歩外へ出ると男は身震いした。白髪混じりの髪を指で整える。本当に寒い。雪でも降るんじゃないか。男はこの街を散歩するのを諦め帰るために改札口に入ろうとした。そのときだった。
「チバさん?チバさんでしょ?」
男は千葉ではない。だがどうも呼んでいる女性はその男を見ていた。その女性は40前後で色気があり白いオーバーを身にまとっていた。とにかくオッパイのきれいな形が目を惹いた。
「チバさ〜ん」
「やぁ」
男は思わず返事をしてしまった。
「待った?」
「いいや」
「一時間も待っててくれたんだ?」
「え?・・・実は俺もさっき来たばっかりで」
「そうなの?そんな嘘ついてチバさん優しいのね」
男は困った。千葉って一体誰なんだ。
「チバさんは出会い系って初めてでしょ?何か緊張してるじゃん?」
そうだったのか。出会い系の待ち合わせだったのか。その男は考えた。いや世の男性なら誰でも考えるだろう。チバになりきってこの女を頂いてしまおうと。だがこの女の名前がわからない。どうするか。
「あのさ、本当の名前教えてくれないか?」
「本当の名前?やだチバさん。そんなことは言わないものなのよ。私はカヨコのままでいいわよ」
「そうか、わかった」
「チバさんだって本名じゃないでしょ?」
「ああ、まあな」
それにしてもこんなこともあるもんだ。聖なる夜に神からのプレゼントなのだろう。男は心が弾けるのを抑えきれなかった。
「今夜はどこも混んでるだろうし、予約なしで入れるレストランはないよな」
「チバさん、何処だっていいよ。今夜一人で過ごさなくていいだけでも感謝しなきゃ」
「そうだな」
僅かな幸せでも喜んでくれるカヨコに男は惹かれた。美人とは言えないが綺麗なオッパイ。それだけで魅力十分だ。二人は寂れた回転寿司に入った。取ったお皿のネタを全部一カンずつ分け合ったので一人で来るより多くの種類を食べることができた。
「お腹いっぱいだね」
「ああ。満足してくれた?」
「勿論よ」
カヨコの笑顔は見てるだけで心が和んだ。

「チバさんは奥さんいるの?」
「え?」
「ネットではいないって言ってたけど・・・」
「いないさ」
「いてもいいのよ。どうせ今夜一夜限りなんだから」
「いないって」
男はカヨコの手を握った。空からチラチラと粉雪のようなものが降ってきた。
「ゴミかな?」
「違うよ。雪だよ」
カヨコはまた喜んだ。
「これからどうする?」
男はカヨコを見つめた。
「私に言わせるの?チバさん、女遊びはしない人でしょ?」
「実は、こういうこと慣れてないんだ」
「そうだよね。誠実そうな目してるもんね」
「俺は誠実な男じゃないよ」
男はカヨコを抱きしめた。路上だが構わず抱きしめた。
「会ったときから君の胸ばかり見ていた。君の裸を見たくて寿司を食べている間もずっといやらしい想像をしていたんだ」
「じゃ行こうよホテル。チバさんの好きにしていいよ」

ラブホテルは予想通りどこも満室だった。クリスマスイブなのだ。当たり前だ。仕方なくビジネスホテルにした。


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