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かりそめ
【その他 官能小説】

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かりそめ-6

 朝目覚めるとカヨコの姿はもうなかった。机にも置手紙はなかった。一晩の関係ってこんなものだろうか?男にはこんなことは初めてのことだったのだ。
スーツを着てロビーに鍵を置いた。
「あの、私の連れは何時ごろ帰りました」
「お連れ様?」
「はい」
「申し訳ないですが、お客様はお一人様でございますが」
男は笑った。
「ふざけないでください。昨日、あなた私に会ってますよね?」
「はい」
「そのとき隣に白いオーバーの女性がいたでしょう?」
「いいえ」
「嘘だろ?」
「だから私はツインでよろしいですかとお聞きしましたよね?」

私はホテルを出た。どうしても信じられなかった。まっすぐに駅まで歩き売店で新聞を買った。
「え?」
一面に載っていたひき逃げ事件の被害者の顔がカヨコにそっくりなのだ。時間、は昨夜の七時頃。えっと俺と会ったのは八時頃だ。会ったときに既に死んでたのか。名前は竹原加代子。43歳。そうだったのか。現場は靴屋の前。カヨコに会った改札口から百メートルぐらいのとこだ。病院で死亡か。事故直後に生死を彷徨って改札口で俺に出会った。いやチバという男に会うためにこの改札口に来たんだ。でも何で俺と間違えたんだろうな。多分、チバが言った自分の特徴が俺に似てたんだろうな。そして本当のチバは来てなかったか、あるいはカヨコが来ないから帰ってしまったかだ。だからチバはカヨコの死をきっと知らないんだろうな。そして永遠に知ることはないだろう。ネットだけの関係の空しさを感じた。

男は着替える時間もないのでそのまま会社に行った。課長は休みのようだ。
「あれ、今日課長は?」
「昨日寒空の下、待ち合わせの相手が来なくて風邪引いたんだって」
「そうか。待ち人来ずか」
あれ、待てよ?課長の苗字って千葉だ・・・。まさか。まさかな・・・。


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