教員-1
坂上は、いささか中年太りの目立つ、四十を過ぎた独り者だった。結婚したことも、教職以外の仕事に就いたこともなかった。父親も教員だった。ふた親ともに厳しかった坂上は、努めて優しい教員であろうとし、まじめでもあった。スポーツも、個人競技なら若い頃は苦手ではなかった。ただ、奥手で意志の弱いところがあり、女には縁がなく、親戚から受けた縁談も、幾度か話が来ては流れていった。自分の男の部分が子供のような形なのを気にしていて、風俗店どころか銭湯に行くのも嫌がった。男兄弟の次男で、教員住宅に住んでいた。いつからか、インターネットを見るのが趣味になっていた。特にアニメーションを好み、理想の女性をアニメーションに見つけていた坂上は、生きた女のからだを知らないまま、この年になっても夢精を困るものだと思っていた。性欲は普通の男並みにあったが、空回りしていた。いくつか見た生臭いアダルトビデオの代わりに、アニメーションのキャラクターと交わることを睡眠前に好んで空想した。
リリヤは坂上に対し、反抗的な様子は少しも表さなかった。しかし、もちろん、心が通うことも同時になかった。坂上がおとなしく、自分を心配していることがリリヤには分かっていた。だから丁寧な受け答えをしていたし、そもそも坂上を困らせる気など毛頭なかった。ただ、坂上もリリヤの世界の膜の外にいて、現実味のない存在に留まっていた。
家族すら、空想の存在に思える時がリリヤにはある。親が別れようとしていることなど、夢の一種として、気にかけるまいとしていた。この指のにおいこそが確かなものだとリリヤは信じた。