E.-5
「もらえない!…こんなの」
「分かんねーの?」
湊は真面目な顔をして言った。
「わかんない!」
陽向は酔うと泣き上戸になる。
いつものことだ。
航は「客いねーし、外の掃除してくるわ」と言って裏口から姿を消した。
「陽向」
「…なに」
「聞いてたんだろ、さっきの話」
「……」
「そーゆーことだよ」
「…分かんない」
陽向は湊のTシャツを握って「だって…頭悪いもん」と鼻をズルズルさせながら言った。
「どこまでもバカだな…そーゆーとこ」
「う…るしゃい」
湊はフッと笑って陽向の耳に口をつけた。
身体がピクンとなる。
「こんなトコじゃ言いたくねぇ」
「金はいーよ」
「は?なんでよ」
レジの前で湊と航が小競り合いをしている。
「陽向ちゃんにいーモンあげて」
湊は「アホか」と言いながらお店のドアをくぐり抜けた。
外に出て静かな道を歩く。
「いい人だね、航さん」
「どーなんだか……でも」
湊は兄をバカにしながらも、楽しそうに鼻で笑った。
「死ぬほど信頼できるヤツなんじゃねーの?」
「いい人だよ…ホントに…」
「てかさ…瀬戸薫と同じ職場なんだろ?」
陽向は俯きながら遠慮がちにコクンと頷いた。
湊の顔なんか見れない…。
「お喋りなんだな、瀬戸は」
「え…?」
「お前とキスしたって」
心臓がドゴンと鳴る。
なんで……。
酔いが一気に覚め、恐ろしいほど冷静になる。
「兄ちゃんの店によく行ってるらしーな、アイツ。つーか、俺と兄ちゃん兄弟なんだから、そんなコト言ったって俺の耳に入るのは100%当たり前なのに…何考えてんのか本気で意味わかんねー」
湊はそう言いながら夜道を歩いた。
怒ってるのか、そうでないのか分からない。
あたし、どうしたらいいの…。
瀬戸の言い方によっては、あたしが喜んでキスしたみたいなニュアンスになっているかもしれない。
だとしたら大事件だ。
湊と別れてしまうのも時間の問題かもしれない。
「じゃあ、瀬戸んとこ行けば?」って簡単に見離されるかもしれない……。
「湊…」
「なに」
低く冷たい声に聴こえるのは自分の先入観のせいなのかな…。
「瀬戸さんとキスしたのは否定しない。でも…したくてしたんじゃない!無理矢理され…」
そこまで言うと、温かい何かで口を塞がれた。
「うるせぇ口だな」
涙が頬を伝う。
「二度とその名前口にすんな」
背筋に、悪寒に似た冷たいものが走る。
この目は、本気で怒っている。
「んっ……ぁ。湊…」
「陽向…っあ」
大きすぎるモノが自分の奥深くを貫く。
陽向は身体を震わせながら湊に思い切りしがみついた。
「ひな…」
抉られている感覚に近い。
「…いっ!…あぁ!」
「は…んぁ。やべえ…」
激しく腰を送られ、みるみるうちに絶頂へと導かれる。
「み…なと…!ぃぁあ!…っあ!」
いつもより、身体が敏感になっている。
そして、いつもよりサディスティックな湊の行動が更に興奮をかりたてる。
唇を思い切り吸われながら何度目かの絶頂を迎える。
「湊…やだっ…」
「何が嫌なんだよ…」
湊はそう言いながら陽向の脚を掴んで動けないようにすると、音を立てながら秘部を舐めまわした。
いやらしすぎる音に、耳を塞ぎたくなる。
「んんんぁ!…やっ!湊…やだってば!」
頭を叩くと、その腕をシーツの上に押し付けられた。
唇が、湊のそれで塞がれる。
「んっ…んぅ…」
再び硬いモノが中に入り込んでくる。
中が、愛おしいそれを待っていたかのように収縮する。
「湊…」
「ひな…っあ」
「…っあ」
湊は陽向を抱き締めながら許可もなく、思いのまま中で果てた。
…すごく、熱い。
そして少し痛い。
痛いと思ったのは初めてだった。
深い愛が、こんなにも痛みを感じるものなのか。
でも、幸福だ。
この、ありあまる幸福を、ただ、感じていたい。