投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 38 プラネタリウム 40 プラネタリウムの最後へ

E.-4

「なんで…」
「お前にやるよ」
陽向は困惑した。
「分かんない…」
「あ?」
「どーして?!これ…湊の大事なモノなんじゃないの?!」
酔っ払った耳で聞いていた。
2人の会話を。

航は22歳になってからこの港町を去った。
あの頃の夢を語りながら。
高3の湊はだいぶやさぐれており、月1で親を学校に連れ込んでいた。
「湊。そこ、座りなさい」
ある夜、ちゃぶ台の前に座らされた。
そっぽを向く。
「なんだその態度は!」
おもむろに立ち上がった父に思い切り蹴られ、湊は畳の上に転がった。
「…ってぇ」
転がった湊に覆い被さるようにし、父は湊の胸ぐらを掴んだ。
「お前の事思って…母さんがどんな思いして学校行ったと思う?」
「……」
「テメーには分かんねーだろーな…恥ずかしさとか、憎らしさとか」
「分かんねぇよそんなん!…お前らだって俺の気持ち知らねークセに!分かったよーな口きくんじゃねぇよ!!!」
思い切り父を殴る。
しばらく殴り合っていた。
泣きながら。
この港を、海を守ると思いながら生き続けていた。
でも、漁師なんかじゃこの世の中はやっていけない。
航の言うように、美味しいと言ってくれる人を求めて街に出るのが正解なんだ…。

でも……。

どれくらい言い合いをしていたのだろう。
襖の外から嫌そうに見ている母は、自分と父の殴り合いを止めに入ろうとしないし、ただ、見ているだけだった。
「湊……」
仰向けになって、息を切らしながら父は言った。
「経営学を学べ…」
「……」
「なんでもいい。お前が何かになりたいと思った時に、絶対役に立つ」
父はそう言って、横で頬から血を流す湊の頭を思い切り掴んだ。

3月。
父と母が駅まで見送ってくれる。
元々頭は良かったので、某大学の経営学部に入るのはさほど苦労しなかった。
「誰に似たのかね。要領のいい子」
母は誇らし気に言うと、湊の首にネックレスをつけた。
三角と逆三角の真ん中に、太陽の光を浴びる小さな石。
「何コレ。ちょーだせぇ」
「母さんの宝物。随分若い頃のやつだけど」
「こんなん付けてちゃ笑われんなぁ?な?湊」
楽しそうに笑う父。
しかし、その顔はなんだか誇らし気だ。
ま、いーやと思いながら電車に乗り込む。
2人に手を振りながら千葉の大海原に別れを告げる。
随分後に知った話。
あのネックレスは父が母に港で授けたもの。

房総半島を見渡す街は、決して治安の良い街ではなかった。
今では見直されつつあるが、何十年も前はヤンチャ坊主たちの遊び場だった。
そんな街に立ち並ぶ店の一つ『Kid』は昔から有名なアクセサリー店。
『ちわっす』
『おう、マモル。よく来た』
アメリカ帰りの友人の吾郎は五十嵐衛とハグを交わした。
『会っちゃハグって、吾郎はいつもそーだよな』
『たりめーよ。親友とはハグが基本』
ガハハと笑った吾郎こと山本大吾郎は、湊の父である五十嵐衛の幼少からの友達だ。
随分前に勢いでアメリカに飛び立ち、帰ってきてから何故かアクセサリー屋を立ち上げた。
何故かと言ったら『気分』と返されたのだ。
『エリちゃんとはどーなの、最近』
『んー、あぁ』
『なんだそれ。何かあった?』
『いんや…。あいつ、掴めねー奴だから』
大吾郎は、ははーん…と笑い、衛に一つのネックレスを差し出した。
『何これ』
銀色の三角と逆三角の中心に、輝くもの…。
『御守りとしてどう?ミスター・イガラシ』
囁きながらニヤつく大吾郎の胸を押す。
『酒臭っ…』
ヘラヘラ笑った大吾郎の右手にはウイスキー。
27歳にもなってこんな馬鹿げたノリ。
アメリカ行って頭おかしくなったか。
狂ってやがる…。
『酔っ払いのオススメなんていらねーよ』
衛は踵を返し、店を出ようとした。
瞬時にコートの襟を掴まれる。
『…ってぇ』
『待てよマモル』
『なんだよ』
衛は嫌そうに大吾郎の顔を見た。
信頼できる表情だ。
なんとなく、そう思った。
『エリちゃんとケンカ中?』
『は?』
『男の影がウヨウヨ』
『なんだよ…』
『エリちゃんの前の恋人か…。いや、違うな』
何言ってんだコイツ…。
『エリちゃんは言えないんだよ、お前に。お前から言ってやれ。失くしたくなきゃお前から言わなきゃダメだ』
何かに取り憑かれたように大吾郎は言った。
持ってけよ、と左の掌にネックレスを握らされる。
『早く!』
アイツはアメリカで占いでも学んできたのか?
恋人であるエリと別れかけていた。
それは、間違いなく他の男だった。
職場の、だいぶ先輩。
言い寄られ、エリはその気になってしまっていた。
エリが幸せなら、自分じゃなくてもいいと思った。
でも心の奥底では、エリを失いたくない、そう思っていた。
…こんなに人を愛したのは初めてだったから。
衛は店を飛び出して、当てもなく、でもなんとなく走り続けた。
目的の場所へ。

真っ暗な灯台の下にエリは居た。
泣いていた。
『エリ…』
『衛…なんで…』
エリはそう言いながら衛に抱き付いた。
思い切り抱き締め返す。
『結婚して…俺と』
『…え?』
『失いたくないと、心の底から思ったから。死ぬまで俺が守ってやる』
衛はそう言ってエリ……母にネックレスを授けた。

後から聞いた話。
ダビデの星には守護の作用があるらしい。
御守り、魔除けなど。
『マモルがあんな真剣になってたから驚いたわ』
結婚してから数年経った後に大吾郎に言われた。
『ホントは相談されてた。エリちゃんに』
『あー、俺は騙されたってワケね』
『ばーか。結果オーライなのによくそーゆーコト言えんな』
衛はケラケラ笑い『エセ占い師』と大吾郎の肩を叩いた。


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 38 プラネタリウム 40 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前