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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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E.-3

ゆるやかなジャズが流れている。
「おーす湊」
「うす」
「今日は水曜だからさ、客少ねーんだわ」
ヘラヘラ笑うハットを被る髭面の男。
湊の兄、航だ。
「そこ、どーぞ」
カウンター席に促され、木製の椅子を引いて座る。
年代物なんだろう。
ギシギシと脚が歪む。
「陽向ちゃん久しぶり。元気してた?」
「お久しぶりです。元気ですよ」
航とこうやって話すのは初めてだ。

初めて会ったのは去年の冬のライブの時で、ステージから手を振られていたのを覚えている。
確か、航だったと思う。
その時は湊の兄だとは夢にも思っていなかったので、好きでいてくれるファンに手を振ったつもりだった。
ライブが終わった後、その男は楽屋に乗り込んできて「CDないの?」と唐突に言ってきた。
「あはは…嬉しいですけど、そーゆーんじゃないんで。…ありがとうございます」
「えー!うそーん!ちょー欲しい」
「ごめんなさい。ま…そのうち」
「楽しみにしてる」
そんな会話をしたのを覚えている。
その後、楽屋で鉢合わせた湊に「兄ちゃん」と紹介されて驚愕した。

その日以来航とは会っていなかった。
ほぼ、はじめましてだ。
「いいお店ですね。こーゆーレトロな所好きです」
陽向は、手元にあったステンドグラスでできたランプを見て「これカワイイ」とニコニコした。
「いいっしょ?あとね、そこでミニライブも出来んの」
航が視線を移した先には、一段高くなったステージのような場所。
ほとんど客席と同じような作りだ。
「歌う?」
航は陽向に笑いかけた。
「あはは。静かな音楽が出来たら、その時に」
「お前の静かな歌も聴いてみてーな」
湊はそう言って「兄ちゃん、ビール」と言った。
「あいよ。陽向ちゃんは?」
「あ、ビールで」
「ビール飲めちゃうか。可愛らしいカクテルとか頼むのかと思ってた」
「こいつ、そーゆーの飲まねーんだよ」
すかさず湊が茶々を入れる。
その言葉に航が大笑いした。
「粋がいい女のがいーぞ」
「良すぎるのもどーかな」
「なにそれ、どーゆー意味!」
「飲み過ぎて俺にどんだけ貸しあんのか分かってんの?」
「……」
陽向が黙ると湊と航がケラケラ笑った。
笑い方さえ、似ている兄弟。
「そんな酒癖悪いんだ、陽向ちゃん」
「相当ね」
2人の会話を聞きながら怒り任せにビールを飲む。
半分までなくなってしまった。
「そーゆー子好きだわー」
「調子乗らせんな」
「乗ってないもん!」
その後、航にオススメのお酒を飲まされ、酔っ払って湊の肩で眠ってしまったのは、言うまでもなかった。

「お前の事、仇に思ってるっぽい」
ぼやんとした頭に声が響く。
「…んな話こいつの前ですんな」
「寝てんだろ?へーきっしょ」
なに…?
「バーカ。寝てても耳は起きてんだよ、コイツ」
湊はそう言って陽向の耳に指を突っ込んだ。
「うっ…っあ」
「ほらね」
陽向はイラっとしながら湊を力なく睨んだ。
「聞いてたんだろ?」
「…な、何が?」
「俺らの話」
湊は「まぁ、つっても兄ちゃんの演説聞いてたに過ぎねーけど」と笑った。
「陽向ちゃん、あのさ」
航が軽い感じで問う。
「薫に、なんもされてない?」
「…え?」
「ここで言うのもアレなんだけどさ、薫…陽向ちゃんに惚れてるっぽい」
陽向は状況が整理できなかった。
え、薫って瀬戸薫のことだよね?
なんで航さんが…え、まさか航さんの知り合い?!
だから湊も知ってるの?
「あ、あの…航さんと瀬戸さんってどーゆー関係なんですか?」
「あぁ、友達」
軽く返され「で…何もされてないよね?」と言われる。
「航さんが言う”何も”って…なんですか?」
陽向が真剣な顔をして言うと、航は「分かってるクセに」と目を逸らしてグラスを手に取った。
笑った顔が湊にソックリだ。
目尻にシワを浮かべたり、右の口角がキュッと上がるところも。
「はい」
無くなったグラスと引き換えに、淡い黄色の液体が入ったグラスが手元に置かれる。
鼻を近付ける。
「ははっ。大丈夫だよ。ふつーのジンジャーエール。スッキリするぞ」
「……」
陽向はその液体を一口飲んだ。
甘酸っぱい味がする。
湊はそっぽを向いてcoronaの瓶に口をつけた。
「何かあったら言ってな」
陽向は何も答えず、もう一口ジンジャーエールを含んだ。
航さんにまで瀬戸の話をされて気がおかしくなりそうだ。
なんなんだ、まったく…。
色々考えていると突然、湊に後ろから抱き締められた。
「…っ!なにっ?!」
陽向は縮こまって目を瞑った。
突然のことすぎてわけがわからなくなる。
「遅くなったけど」
湊は陽向の目を見ずに言った。
「誕生日おめでとう」
「へ…」
首の辺りに違和感を感じ手で触ると、そこにはネックレスがあった。
ダビデの星の中心に、ステンドグラスのライトを浴びてカラフルに光る石。
でも、ネックレスは前にクリスマスにもらったはず…。
ってかなんでこのタイミング。
「なんで…え……」
挙動不審な陽向を見て航がバカ笑いする。
「ちょーいいじゃん。似合ってる」
「え…でも……だって!去年のクリスマスに…」
「それは俺の趣味」
「……」
「俺のネックレス」


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