1. Someone to Watch over Me-15
「……、なぜ私は心配して電話してあげてんのに、いきなりあんたのエロ声聞かされてるわけですかっ!?」
美穂の不機嫌な、そして呆れた声が聞こえてきた。
「べ、別に……、エロくなってないっ……」
そう悦子が言った矢先、平松が悦子の頭を愛おしく撫でた。髪を撫でられる度に、頭にジーンとした痺れが襲う。残り酒の痛みが和らいで、酔いだけが頭の中をボンヤリと霞めさせる。頭に手を添えられて顔の向きを変えられた。すぐ前に平松の顔がある。モテなさそう、とつい昨日思った顔だ。イケてない。しかしその顔が近づいてくると、
「だ、だめ……、ちょ……」
悦子は大した抵抗も見せれずに、肩から首筋に感じていたとおりの感触を唇に与えられた。「んっ……」
唇ではまれる。顔を離すことができないまま、何か言おう、平松でも美穂に対してでもいいから、と言葉を発しようとするが、それが余計に唇どうしが撥ね合う音を立てる。
「えっとぉ……、ジャマしちゃ悪いから切っていい?」
「ち、ちがっ……、んんっ、……美穂、まって……」
キスをされながら、早く切りたかった筈の美穂を呼び止めた。
「何だよ? お楽しみ中なんだろ? ……あんたねー、いくらサカってるからって、相手選んだほうがいいよ?」
「いや、み、美穂……、……」
前に男とキスしたのはいつだったろう。久しぶりに唇を吸われて、その心地よさで体中が溶けていきそうだった。「……何でこんなことんなってんの? わたし」
「知るかっ!!」
切られた。平松の手が携帯を持つ手に伸びてきて、自分の首に回させる。腰をしっかり抱かれて、下腹に硬い勃起を擦りつけられて更に深いキスをされる。んっ、と声を漏らしながら身が左右にくねってしまう。
(やっ……、マズいっ……)
履き直したジーンズと下着の内側で、奥から甘い疼きとともに蜜が滲み出しそうな予兆を感じた。
「ま、待って。い、一旦、離れよう。ね?」
頭を引いて離れ、息を荒らげつつ悦子は目を見て訴えた。
「はい」
そう言ったくせに平松は悦子の唇を追いかけてきてまた吸い付いてくる。このやろう、なに勝手に舌入れてくれてんだよ。そんな扱いを受けたら自分は思いっきり引っ叩いてやるほどの女だと思っているのに、平松の首に回した両腕を外す力が出ない。平松の手がカーディガンの中で体をまさぐってくる。キャミソールの上から十本の指が艶めかしくなぞる度に肌の表面を震慄にも似た膚触りが背中から踵まで駆け巡ってくる。
「わっ……」
ジーンズの奥が熱く潤ってしまったのを自覚した刹那に、ふっと悦子の膝の力が抜けて崩れそうになり、慌てて平松の首につかまった。目線を上げると平松が瞳を弛ませて微笑ましく見て、首に置いていた悦子の腕を外させて、手首を持ったまま後ろ歩きで引いてくる。
「えっ、ちょ……、なに」
狼狽する悦子は、躓きながら平松に引かれて進まされた。大して広い部屋ではない。向かう先にあるのは、ついさっきまで寝ていたベッドだ。そっちはマズい。平松が悦子の手を引いたままベッドに腰掛けようと引くと、悦子は足を突っ張ってさせまいとしたが、再び腰を持たれ優しく、しかし有無を言わせぬ力で導かれると、体を寄せ合うように隣に座らされる。
「だからね、ちょっと落ち着いて」
諭す貌で言い聞かせようと向けた顔に平松がまた顔を近づけてくる。「……だからダメだって言ってんだろっ!」
声量を上げて押しとどめようとしたが、平松の唇が止まらないのが分かると、目をつぶって口を吸われるのに備えた。
「……やっ」
だが、平松の唇は寸前で悦子の唇を躱し、首筋を柔らかにはんできた。ブルブルッと体が震えて、潤った息が漏れた。閉じた脚の間が蒸れるほど湿ってきたかもしれない。唇が鎖骨の凹みまで這わされて降りてくる。隣から覆いかぶさるように抱き寄せてくる平松の緩んだ腕を押し返そうとしていたが、ふとバストを覆うような感触に気づいた。
「ちょっと!」
唇を這わされる疼きに気づくのが遅れたが、視線を体に下ろすと平松の手のひらがカーディガンの中で胸乳を包み込むように触れられていた。「か、勝手に触らないでっ!」
「……触ります」
「バッ……、ダメにきまってるだろ!」
平松の手首を掴んだところで、手のひらがバストを揉みほぐしてきた。引き剥がそうとするが抗いの力を感じる。こんな緩んだ体してるクセに、男の腕力出してくる。何よりほぐされる度にバストに巻き起こってくる熱いざわめきが悦子の力を奪ってくる。その間にも唇はキャミソールから露出した肩口じゅうを這いまわってきた。
「さ、触んないで……」
何とか声を出したが、自分でも恥じ入るくらいに甘い声色になってしまっていた。その声を聞いた手のひらが一瞬離れる。よし、ここで落ち着かせよう、ともう一度説得を試みようと次の言葉をかけようとした矢先、平松の手がまたバストを包んできた。今度はキャミソールの中に手を入れている。手のひらは下着越しだが、指先は肌に直接触れていた。