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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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1. Someone to Watch over Me-14

「まだこっち向いていいつってねーだろっ!」
 直情的に振り返ったが、平松の視線を防備の甘い上躯に感じて、羽織るものを探しにクローゼット前に戻る。
「……バタバタしてますね」
 もう暫く着ることはないだろうと、畳んで奥に閉まっていたカーディガンに袖を通しながら、漸く平松の方を向いた。誰のせいでバタついてると思ってるんだ、と睨んだが、変な間を置いて向かい合っている平松の目が余裕ぶってじっと見つめてくるから、悦子はたじろいで、
「あ、あんたも服着てっ」
 と、言ったところで、バッグの中で携帯が鳴り始めた。今度はバッグに駆け寄り、携帯を取り出すと、画面には美穂の名前が発信元として表示されていた。平松がゆっくりとした挙動でベッドから身を抜け出させ始める。白く緩んだ体からブランケットがズレていって、床に脚を付いて立ち上がろうとしたところで下半身からスルリと落ちるのが見えて悦子は慌てて背を向けた。
 早く服着て欲しい、と祈っていると、両手で握りしめた手元から声が聞こえる。もしもーし。美穂の声だ。しまった。平松の全裸を見そうになって慌てふためいたあまり、応答をスライドしてしまったらしい。
「も、も……、もしもし……」
 そんな偶然あるかよ、と思いつつ、今更切るわけにもいかない。チラチラと平松の方を窺いながら、悦子はかすれた声を電話に向けた。
「よー、まだ寝てたの? もう昼過ぎてるよー」
「あ、う、うん……。今、起きた……。ど、どうしたの?」
 美穂と話しながらもう一度平松を見ると、トランクスを履いたパンツ一枚の姿で電話をしている悦子を見ている。絶対声出すなよ、そして早く服を着ろ、と睨みで訴える。
「いやー、きっと落ち込んでると思って。メールしても無反応だし、様子どうかなって心配してやってんじゃん」
「え、あ……、な、なんで?」
 落ち込む、と言われるとちょっと違う。慌てている。
「聞いたよ。あんた昨日、ヤッちゃったらしいじゃん」
「なんで知ってんの!?」
 声が裏返って叫んだ。
「なんでも何も、会社ん中で超話題になってたよー。権藤チーフが新入り泣かしたって」
 やらかした、の意味を捉え間違えたことに気づきひとまず安堵して、
「あ、うん。で、でも大丈夫」
 平松の着用の進捗を確認しようともう一度振り返ると、まだトランクス姿のままだった。ぽっちゃりとした体型が動物の子供のようだが、体毛が殆ど無く、白い肌をしているせいか、いつかテレビで観た古い映画に出てきたマシュマロマンを思い出さずにはいられなかった。電話を持っていない方の手を振って、早く、という意志を示すが、平松は床に無造作に脱ぎ置かれたスーツを手に取ろうとしない。
 それどころか、微笑みを湛えながら自分の方に近づき始める。
「ちょっ……!」
 声を上げて身を引いたが、背後はクローゼットだ。
「ん? どうした?」
 美穂の訝しげな声が聞こえてくる。
「な、何でも。……えっと、私大丈夫だから」
 近づいてくる平松からの逃避と、電話の向こうの美穂との会話を同時に行うことができない。容易くすぐ側まで接近を許してしまった。平松の手が伸びてくる。
「……や、やめっ」
 受話器を離して平松へ罵声を浴びせようとしたが、カーディガンの袷から内側に手を入れられて腰を引き寄せられる。ぽよんとした体が密着してきたのが何故だか妙に心地よく、腰に触れる手の感触がブルッと背中に焦燥感を走らせてくる。
「ひらまっ……、ちょま、待って……、電話きるからっ」
 身を捩って小声で訴えるが、平松は腰を強く悦子の身を自分の方に向けさせると、正面から抱きしめて来た。デニム越しにもわかる、脚に硬いモノが当たっている。朝だもんね、いやもう昼か。現実逃避のように脳裏をかすめる無関係な感慨を必死に打ち消しながら、とにかく電話を切ろうと耳に当て直した。
「……おい」
 美穂の低い声が聞こえる。
「えっ……、な、なに……?」
「何してる?」
「な、何も……」
 もう一方の手で平松を押し返そうとするが、緩んだ体をしているくせにビクともしない。それどころか、カーディガンの肩を外されて熱い吐息とともに唇を押し当てられた。「はっ……、……ちょっ、ひゃっ……!」
「……まさか、隣に泣かした子、いないよね?」
「ちょっ、何言ってんの……? そ、そんなわけないじゃん」
 平松の唇が肩から首筋へ昇ってくる。滑っていながら、触れるか触れないかの微妙な感触が、さっき腰から登ってきた爽快を今度は上から下へ背中に走らせる。自分でも驚くほどの敏感な反応だった。平松の唇が、何とか忘却の彼方に押しやろうとしていた昨日の出来事を思い起こさせてくる。この唇が何度も何度も全身にキスをしてきた記憶が、頭が拒絶しても肌が如実に思い出してきた。
「っ、……んっ」
 悦子の弱点である耳の直ぐ側をキスされると、甘ったるい声が漏れた。電話を離すのが遅れた。


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