記憶の眼-1
この日先回の侵入から2週間が過ぎていた。
その間何かと理由を付け早退病欠を繰り返し、けして高く無い確率を再び引き当て侵入の機会を窺っていた。
(それが今も変わらずそこにあるのか?)
それだけがこの二週間変わらず、脳内を駆け巡っていた。
その存在自体は最初の侵入時より把握していた。
クローゼット棚上奥にあるナンバー錠付のボックスには、恵利子が小学生高学年の時から大切な物をしまっていた。
しかし何故それがそにあるかを知っていて、どうして開錠すら出来るのかも解らなかった。
その時それを持ち出し目にする事は容易であったが同時に戻す機会も失し、それが僕の想像通りかそれ以上の物であればあるほどに、すり替え手に入れる事で無限の可能性を秘めていると思われた。
“箱”の中には画像の荒いプリント用紙が8枚と便箋が2枚、それとミニD.V.※)と呼ばれるSONY製記録メディアが3本存在していた。
プリント用紙はいずれもスカート内が盗撮された物で、写された下着の柄からそれぞれが個別の日に盗撮された事が解る。
8枚中3枚は下着をずらされながら盗撮されており、一枚目の便箋にあった文言から察するに段階的な脅迫を受けていた事を窺わせる。
しかし重要なのは二枚目の便箋にあった文言で……
「盗撮物全てと引き換えに貴女と話がしたい。場所は朝の駅のホーム、日時は後日伝える」
それが何を意味し、そこから想像出来る内容。
恵利子は盗撮された事で脅迫を受け痴漢行為に応じさせられていた?
そしてその行為がエスカレートしていく中で、更なる脅迫を受け盗撮者と直接対峙した可能性が高く、何らかの“要求”に応じ…… 応じさせられた結果が3本のテープであると思われる。
そこからそれが、プリントされた画像の原版である動画であると結論づけた。
本来ならすぐにでも処分したい物が保存されている理由は理解出来ないが、多分引き渡された物が偽物ではない事を確認する為に一定期間手元に置いておきたかったのだと思う。
磯崎家にはミニD.V.を再生可能なビデオカメラは無いし、またその内容から言っても安易に再生出来る物では無い。
恵利子の性格から言っても嫌悪感を伴う物でありながら、自身の目で真贋を確認した上で全てを処分したかったのであろう。
事前に準備していた物とすり替えると、足早に磯崎家をあとにした。
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※)都度、詳細に記して無いですが、物語の世界観は2006年前後を軸にしております。当時としてミニD.V.方式は、最高画質録画と言えるクオリィティです。