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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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ホワイト・ライ・クリスマス-1

 十二月の夜。

 ラクシュは自室兼工房の床に座り込み、淡い紫の光を放つ鉱石を彫っていた。
 発光鉱石は、色と文字の組み合わせで無数の魔法効果を発揮できる。そして色に向いた属性と言うものがあり、例えば赤なら炎、青なら水、緑は能力向上……というように、使い分けられるのだ。

 一本の鉱石木からは、さまざまな色の発光鉱石が取れるが、紫の鉱石はあまり見つからない為、これを使う魔道具は自然と高級品になった。
 しかも、ラクシュが今手にしている石は、とても深く美しい色をしている。特別品を造る時のために確保しておいた、とっておきの鉱石だ。

 人間の細工師は、鉱石の加工に工具を使用するが、ラクシュは自分の指先を変形させて石を彫る。
 刻む文字の数に合わせて鉱石をカットし、次に全体の形をきめ細かく整えていく。
 形が出来たら魔法文字を刻み、仕上げに穴をあけて紐や鋼線を通せるようにすれば、鉱石ビーズの完成だ。
 彫りあげた紫のビーズの左右に、緑色の小さなビーズを配置して革紐を通すと、色合いも良い簡素な首飾りとなった。

「ん」

 出来上がった魔道具の首飾りを眺め、ラクシュは頷く。
 柔らかな生成りのフェルトで丁寧に包み、赤いリボンで結ぶと、それは立派なプレゼントに昇格した。

 窓の外を見ると、昼からずっと降っていた雪はいつのまにか止んでいた。
 夜空には無数の星が煌き、月光が一面の雪景色を青白く照らしている。
 外は凍てつくような寒さで、この部屋の気温もかなり低い。しかし吸血鬼のラクシュに、寒さや暑さはあまり苦にならなかった。
 家の中で着ているものは、基本的に一年中同じだ。
 肌着の上に黒い貫頭衣のローブと、室内スリッパ。

 ラクシュは座り込んだまま、素足に履いた柔らかな深緑色の室内スリッパに視線を向ける。
 履き心地の良いこのスリッパが、とても気に入っている。
 そして、これをくれた相手も……。

「ラクシュさん、ご飯できましたよ!」

 扉をノックする音と共に、アーウェンの弾んだ声が、静かな部屋に飛び込んできた。
 ラクシュはプレゼントを作業台の上に置き、部屋を出る。
 そして廊下に出た途端、眩しさを和らげるために、両目の上を手で覆う羽目になった。
 満面の笑みを浮かべたアーウェンが、全身からすごくキラキラを散らしている。

「お待たせしました!」

 今日はクリスマスだからご馳走を作ると、彼はとても張り切っていた。
 キラキラ度合いと、パタパタと嬉しそうに揺れている尻尾から察するに、とても満足のいくものが出来たのだろう。
 ゴーグルを持ってきた方が良いかなぁ……と、ラクシュが考えているうちに、待ちきれないといった様子のアーウェンに手をひかれ、食堂へと連れていかれた。

 そして食卓を見たとたん、ラクシュの赤い胡乱な目は、精一杯見開かれる。

「……アーウェン、凄い」

 綺麗なテーブルクロスの上には、全て野菜だけで作られたご馳走が並んでいた。
 スープにサラダにソテー。美しく盛り付けられた料理たちは、見ているだけでも嬉しくなってくる。豆乳クリームと冬苺で飾った、小さなケーキまである。
 ラクシュはマッシュポテトで作られた雪ダルマの顔を、感心して覗き込んだ。

「冷めないうちに食べましょう」

 アーウェンが照れたように笑う。
 オリーブ色の狼耳がピクピク動いて、キラキラが目を逸らしても眩しいくらいに増えたから、彼がラクシュの拙い褒め言葉にも喜んでくれているのがちゃんと解った。
 ラクシュも席につき、ほんわりと湯気を立てているトマトスープからとりかかる。星型に飾り切りされたニンジンを、匙ですくい取った。


 ――『クリスマス』というのは、随分と昔からあるお祭りらしい。

 どういう由来なのか、もはや誰も知らないが、この日が特別ということだけは、未だにあちこちの国で根付いている。
 国や地方によって多少違うが、基本的にはどこも木やツル草にピカピカ光る飾りをつけ、家族とご馳走を食べるのだ。

 ラクシュがキルラクルシュとして黒い森に住み、壮絶な戦いに身を投じていた頃、ラドベルジュ王国の人間たちも、このクリスマス前後にだけは襲ってこなかった。

 城の高い位置にある自室からは、白い雪を被った黒い森を見渡せた。そのはるか遠くの夜闇の中に、人間たちの暮らす街の灯まで、小さく見えたものだ。
 黒い森の吸血鬼たちは、クリスマスを特に祝わなかったけれど、キルラクルシュはこの日が好きだった。

 人間達と戦わなくて済むクリスマスシーズンは、一年で唯一の、心休まる期間だったから。


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