新人・裕也-1
「ただいまぁ〜」
「あ、お帰りー!ねぇねぇ…、」
寿紀が玄関で靴を脱ぐやいなや、希美が話かけてきた。
「聞いて、聞いて。先月からね、うちの部署に新人の男の子が研修できてるんだけど、、、」
「研修…?」
「うん、他の新人さんも仮配属であちこちで研修してて、うちはその男の子で…」
「それで?」
「でね、私主任だからメインで経理とか伝票とか教えてるんだけど、その子、なんか全然センス無くて…。それに挨拶もロクに出来ないしで…」
普段愚痴をこぼさない希美が珍しくエキサイトしていた。
「こないだまで学生だったんでしょ、まだまだ役に立つ訳無いさ。」
「でもホントだめなんだよね…」
それはそうだろう。
希美は簿記1級を持ち、短大出てからもう24年もそういった実務をしている。
教えながらでは、自分の仕事も捗らずイライラするのも寿紀は分かる気がした。
「あまりキツく教えたり、苛めたらだめだよ!」
「苛めてないって!!普通に指導してるだけ…すぐに黙っちゃうんだ、今の男子は…ハァ、、、」
とため息をつく。
「緊張してんじゃない?なんなら今度家に呼んでご飯でも食べさせたら!どうせ夜はどっかで独り食べてんでしょ。」
「はぁ??冗談言わないで、、、昼だけで大変なのに夜まで付き合ってらんないわよ!」
希美がマジ嫌な顔をする。
「それもそっか…。じゃ、俺が外で飲ませてやるよ!」
「えーッ、本気で言ってんの?」
「少しだけだよ。学生の時から飲んでんじゃないのかな。」
「なんかヤダなぁ…まだ試用期間だし、変なこと教えられたら私がやりづらいじゃん!」
あまり乗り気じゃない希美。
「大丈夫!それとなく誉めて、それとなく指導して、希美が仕事し易くするからさッ」
「ホントに〜!?」
「任せといてよ。」
「じゃあ、じゃあねーうちの奥さん仕事は厳しいけど、お家じゃ優しくて良い奥さんだって宣伝しといてくれる?(笑)」
「もちろんだよ、了解(笑)」
寿紀は希美の機嫌が良くなったのを見計らい、自分の携帯に裕也から電話くれるよう希美に頼んだ。