親友はありがたい-1
【親友はありがたい】
「おい、ナカジタ」
給食を食べ終え、トイレの個室で、食後のタバコを燻らしていたガツオが、隣の個室に向かって声を掛けた。
「ぷはー、何だい、ヒソノ」
クラスメートのナカジタも、個室に籠って食後の一服の真っ最中だ。
「お前、タバコ吸ったらいつも居なくなるけど、一体どこに行ってるんだ?」
ここ最近のガツオは、自分より少し先を成長するナカジタを、少し意識するようになっていた。元々ナカジタにタバコを教えた自負も有った。
「ははは、ヒソノ、気になるのか」
「そ、そんな事無いけど…」
ナカジタの声の調子に、からかいの色を感じたガツオは、言葉を濁した。
「無理するなよヒソノ。気になるんだったら、ついてこいよ。いいもの見せてやるから」
「別に気にしてる訳じゃ…」
「いいからいいから、黙ってついてこいよ」
こうして強引に誘われたガツオは、ナカジタの後をついていった。態度は渋々、しかし心の中は好奇心一杯だった。
「おい、ナカジタ、ここって体育館の倉庫じゃないか。こんなところで何をするんだよ?もう1回タバコでも吸うのか?」
ガツオが怪訝そうな顔をナカジタに向けた。
「まあ、ちょっと待ってろよ」
「『 待つ』って何を?」
「直ぐにわかるって」
ナカジタが不敵な笑みをガツオに向けた時に、倉庫の扉を遠慮がちにノックする音が響いた。
「おっ、来た来た」
「だ…」
誰が来たのか聞こうとしたガツオを手で制し、ナカジタは楽しそうな表情を浮かべて扉の向こうに声を掛けた。
「入れよ」
その言葉に反応し、扉がそーっと開いた。扉を開けた者が倉庫に入ろうとした時に、ガツオの存在に驚き、その体を硬直させた。
「ヒ、ヒソノくん!」
「ハ、ハヤカイさん!」
ガツオの中での『彼女にしたいNo.2』のハヤカイの登場にガツオも驚いた。因みに『彼女にしたいNo.1』は、勿論クラスのマドンナ的な存在感のカオルだ。
そんなガツオに、ハヤカイが噛みついた。
「どうしてヒソノくんが居るのよ!」
「『どうして』って…」
「早く出て行きなさいよ!」
真っ赤になって怒鳴るハヤカイ。ガツオは好意を寄せる相手の突然の激昂に、益々訳がわからなくなった。
そんな2人を楽しそうに見ていたナカジタが、怒るハヤカイを手で制した。
「まあまあ、ハヤカイさん、ボクがヒソノを誘ったんだよ」
「まあ、ナカジタくんが…」
ナカジタの一言で、ハヤカイの勢いが薄れ、その表情に戸惑いの色が浮かんだ。
「ヒソノはボクの親友だから、いいだろ」
「し、親友だからって…」
ハヤカイは戸惑いながら、チラチラとガツオの顔に視線を向けた。
「厭ならいいよ。おい、ヒソノ、野球しにいこうぜ」
ナカジタのこの一言がハヤカイの態度を変えさせた。
「もう、ナカジタくんたらイジワルなんだからあ。そうね。まあ、いいわ。どうせ減るもんじゃないしね」
「そうそう、さすがハヤカイさん」
「何言ってるのよ。減らないまでも先生相手ならお金になるんだからね。ナカジタくんが相手ならタダ働きよ。それにいつも重労働」
態度を一変させたハヤカイは、ナカジタの軽い調子に合わすと、一歩中に入って、後ろ手に倉庫の扉を閉めた。
「ははは、重労働はこっちのセリフだよ。それにそんな事言いながら、給食の時間に色目を使ってたのは誰だよ」
「もう変な事言わないでよ。あたしはそんな目はしてません。ナカジタくんに言われた通りにしてるって、教えようとしただけじゃない。そんな事言って、ナカジタくんもあたしの足元ばかり見てたでしょ」
「何言ってるんだよ。スカートの裾を捲って、あれだけ足を開いたら、ボクだって気になるじゃないか」
「うふふ、やっぱり気になってたんだ」
ハヤカイは嬉しそうに笑った。