レイジーマン-7
先生は顎を手でさすりながら、推測するような顔つきをした。
「うそ、違うの?んー‥じゃあ‥。中峯?いや、アイツじゃないな‥」
あたしは俯いて、自分の膝あたりを見つめた。
…今、告げてしまおうか。あたしの気持ち。
ふいにそう考えた。
先生が酔っ払っている今なら、言ってしまえるような気がする。
言ってみて、もし不審な顔をされたら「冗談に決まってるじゃないですか」と言えばいい話だ。
あたしは息を整えて、アルコールのせいで少し紅潮した先生の顔をまっすぐ見据えた。
「あーダメだ、全然分かんね。匂坂ぁ、絶対誰にも言わねぇから教えてくれよ」
「……。教えますけど、本当に、誰にも言わないでくださいよ?」
先生は真面目な顔して頷く。
「おれはこう見えてすげぇ口堅いから安心しろ」
あたしは、人差し指を一本ピンと立て、先生の鼻先に向けた。
目の前にある顔を指差したのだ。
「先生です」
「……え」
「あたしが好きなのは…先生ですよ」
「……」
先生は間抜け面で固まった。口が半開きになっていた。
それが滑稽で、場に似合わず笑いが込み上げてきそうになる。
先生はひとしきりボーッとあたしを見つめたあと、困惑の表情を浮かべた。
「…、え、何…?今なんか…、えっ?」
軽くパニックに陥っているようだ。
「だからぁ」
あたしは声を大きくした。
「あたしが好きなのは、浅尾健二先生なんです!‥あなたです」
先生の顔が半笑いになった。だが、その口は引きつっている。
「…いやいや…。え…まじですか」
「マジです」
「…今日何日だっけ?」
「6月20日。エイプリルはとうに過ぎましたよ」
「うっそ…」
先生は自分の額に手をあて、黙り込んだ。
あれ…酔ってるから流してくれるかと思ってたのに。なんか真面目に考え込んでる。まずいかも。
あたしはとっさに口を開いた。
「やっだな、冗―」
「信じていいのか?」
先生があたしの言葉を遮った。
この時ほど真剣な彼の顔は見たことなかった。
「えっ…あの…」
あたしは戸惑った。冗談ですよ〜何本気にしてるんですか、などと言おうとしていたのだ。
でも、そうするべきじゃないかも―
という考えがチラついた。