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吐息の会話
【その他 官能小説】

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吐息の会話-1

(1)


 堪えた快感に歪んだ有里亜の口から喜悦の声が洩れる寸前に口を重ねて塞いだ。
「う……」
喉が鳴り、鼻から熱い息が湿り気をともなって吹きかかってくる。
(声を出してはならない……)
有里亜も口づけながら声を呑む。
 すでに彼女の全身はぼくの舌と唇の愛撫を十分に受け、熱を帯び、溢れた淫液にまみれた女貝には漲った肉茎が埋め込まれている。女筒の襞に包まれ、燃え上がる女体の絶え間ない蠢きが伝わってくる。限界に近づいているのがわかる。
 声を押し殺すだけではない。激しい動きも控えなければならない。貫く快感に声も出せず、股間を打ちつけることもできない。
 有里亜は時に息を止め、胸を迫り上げてのけ反り、吐息してはぼくの肩に吸いついて背中に爪を立てる。

(苦しいのだろう……)
快感なのに拷問のように感じている。耐えられずに呻吟することもしばしばある。その度にぼくは彼女の口を塞いで動きを抑えて抱きすくめる。そしてペニスを押し込んでゆっくり律動を開始するのだ。
 有里亜の忙しない呼吸が薄暗闇の部屋に沁み込んでいく。

 有里亜もわかっている。膨らみ続ける快感を緊縛した『苦行』の後にとてつもない快楽が全身を翻弄することを。……しかしわかっていても、二人だけの部屋である。思うまま体をぶつけて官能の呻きを洩らしたい。自由な空間であるだけに、つい声が出てしまう。
 ぼくはひたすら闇の沈黙の中でのセックスを求める。埋め込み、包み込んだ性器が擦れ合って熱を持つ。
『どうにかなっちゃう……』
『いいよ、いいよ』
一瞬息を止め、突っ張ったことで二人は絶頂に向かう。
 こうして有里亜は痙攣を伴って達した後、しばらく悶絶したように意識を失う。

 やがて上下する胸の動きが治まる頃、うっすらと目を開ける。
「気持ち……よかった……」
まだ朦朧としている。
「感じるだろう?」
「うん……すごく、疲れるけど……」
闇に浮かぶ微笑みは満足感と気だるさが滲んでとても妖艶である。


 ぼくは25歳、有里亜とは部課はちがうが同じ会社に勤めている。彼女は二つ年下だが同期入社である。
 関係を持つようになって一年になる。初めのうちは若い体を貪り合い、絡ませながら愛の交歓に酔いしれたものだ。むろん満ち足りた愛欲の世界であった。
 性愛の嗜好が変わったのはふた月前の社員旅行の出来事がきっかけである。
宴会の後、二次会もばらけてそれぞれ各部屋に仲のよい者同士が集まる流れになった。部屋割は決まってはいたがどうでもよくなっていた。
 
 有里亜の部屋にぼくだけが男1人入り込むことになったのは意図したわけではない。酔っぱらいを避けた女子の部屋にやはり酒が苦手なぼくが誘われる形になった。
「部屋で飲みましょ。彼氏もどうぞ。ワイン冷やしてあるの」
ぼくと有里亜が付き合っていることはみんな知っている。
 そして夜半過ぎまで飲みながら語り、そのまま部屋で寝ることになった。
「いいわよ。有里亜と仲良く寝なさい」
酒も入っていたからだろう、ぼくも遠慮もなしに布団に入った。
「Hしちゃだめよ」
一人が言い、みんなで笑った。

 もとよりそのつもりはなかった。だが電気が消され、しばらくしてみんなの動きが治まると、妙な静寂に目が冴えた。
(なんだろう……)
部屋の空気が張りつめていることを感じた。有里亜とは一つの布団だから体は触れ合っている。
 這うように手を伸ばして乳房に触れた。
(だめ……)
無言で微かに顔を振った。部屋の薄明かりで表情はよくわかる。
 浴衣だから難なく乳房を掴み、乳首を摘んだ。
「く……」
有里亜の顎が上がって体が強張った。わずかな動きでも意外なほど音がする。

「だめよ……」
 ぼくの耳もとで息のように囁き、目配せをした。だが、ぼくの手は滑るように有里亜の股を割った。閉じた太ももが間もなく弛み、指を迎える態勢になった。
 ぼくは息を潜め、異様な昂奮に包まれつつあった。指を挿入してみて有里亜も熱いたぎりに濡れていた。
 3人の女子社員がいつ目を覚ますか知れない。いや、まだ寝ていないかもしれない。耳をそばだて、息を窺い、その緊張が音もなく昂ぶりを膨らませていった。
 有里亜もペニスを握ってきた。
(ここまでよ……)
これ以上は……。泣きだしそうな顔が語っていた。


 その時の昂奮は不意に甦った記憶が呼び覚ましたものだった。
(ぼくの初体験……)
その体験自体、むろん忘れようもないことだったが、行為そのものの昂奮だけではなく、その裏に闇に瞬く閃光のような性の息吹があったことに思い当ったのだった。 


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