桜貝受容-1
時計の針は恵利子にとって、門限の時間に近づこうとしていた。
「恵利子の顔を見上げながら“射精したい”」
二度目を求める男は、恵利子の耳元でそう囁く。
男は慌てる事無く仰向けになると、恵利子が上になる様招き入れる。
躊躇いながらも指先を陰茎に添え、腰を先端にあてがうとゆっくりとだが膣深く咥え込んでいく。
そして先程とは全く違う感覚が、再び恵利子を悦びの渦へと誘いはじめる。
深く咥え込んだ陰茎を軸に自らの意思で、歪な弧を描くように腰を蠢かせる。
その動きに先程までとは違った圧力が、膣内壁臍側を雁首括れがなぞり擦り上げてくる。
それも自らの意思でその深浅加減を調整し、より深い悦楽の摩擦を探る事が出来るのである。
そこにあるのはもう穢れ無き桜貝では無く、艶やかな悦びに包まれた“白金のクレヴァス”であった。
(こっ、こわれる…… わたし、本当の私が壊れて……イクっ)
耳を疑いたくなる淫靡な音が自分の中からあふれ、あふれふとももを再び冷たく濡らしていく。
いったい…… 何度のぼりつめたであろう?
身を委ね依存するのではなく、自らの意思で快楽を貪る心地良さに恵利子は酔いしれる。
二度目の膣内への想いを受容れた後、まるで次へのインターバルを取る様に恵利子は男の腕に包まれていた。
背面座位の体勢恵利子は貫かれながら、男の両腕に抱きしめられその言葉に耳を傾けていたのだ。
それは先程までの行為と異なり快楽を貪り合うのではなく、互いが繋がりあっている事により意思の疎通を深め交わす儀式の様に見えた。
実際千章はポリネシアンセックスの様に挿入こそすれど全く動く事無く、その意識の全ては恵利子に伝える情報に集約されていた。
「恵利子、君は不老不死を信じるかい?」
千章は唐突にそう口にする。
その言葉に恵利子は、ほんの僅かに首を左右に振り意思を伝える。
「そう、その通り…… ヒト細胞の分裂限界は、毒性酵素蓄積により僅か56回。それが人の寿命であり、その終わりが人の死を意味する。だけど、仮にその限界を高める方法があったとしたら、君はどうする?」
それは時の権力者たちが憑りつかれた妄想であり、不可能な夢であった。
「…… お願い、もう…… 焦らさないで…… ください」
少女はそう言うと、切なげに自ら腰を揺り動かす。
「ところがそれを可能にする物質が存在するとしたら? もちろんそんな物質は、地球上に存在しない…… いや、しなかった。それは遥か古の昔、天空より舞い降りてきた。そしてそれは正確には物質ではなく、地球外生命体がその体内に宿していた“virus”…… と思われる」
少女の切なる願いにも、男は言葉を止めなかった。
「もうっ、おとぎ話は…… 終わりです。それよりも、もっと…… 」
少女はそう言うと、ちょっと拗ねた複雑な表情を見せ、体位を背面座位から対面座位へと自ら入れ替える。
向き直った表情は恥じらいを浮かべるも、その下半身は別の意思があるが如く貧欲な動きを見せる。
「うぅっ、くふぅぅっ、はあぁぁ、やっぱり、わたし、こっちの方が良いみたい…… っです」
陰茎先端雁首が膣内壁臍側に擦り付けられる度に、“無限”の快楽が注ぎ込まれていく。
「恵利子、君は“美しい”…… その美しさが永遠に、それを君に能える事が出来てうれしいよ」
男はそう口にした後、少女の望み通り粘膜との快楽の貪り合いに意識を専念する。
後に少女は男から能えられた能力が、最強の“盾”と呼ばれし選ばれた民の超常の能力の一部である事を知る。
そしてそれと対を成す能力、最強の“矛”と呼ばれたのが“virus”の抗原連続突然変異。
それは抗原ドリフトとも呼ばれ、ウイルス核酸が一 塩基単位で変異を起こすものである。
いずれにしてもそれは憶測であり、今現在となっては詳細は不明であり、証明の術も無い…… と思われている。
しかしその超常の能力は“時”を経て薄まりながらも、僅かにその能力と記憶を宿す者たちが存在しているのも事実である。