桜貝受容-2
三度目の想いを欲し、胸元の膨らみを揺り動かす恵利子であったが……
それでもまだどこか、満たされぬ“渇き”に似た感覚が片隅に残っていた。
(やっぱり…… 言われた通り…… )
恵利子は内なる恵利子の言葉を思い起こしていた。
「おっ、おねがい、お願いします。ごほうび、ご褒美を恵利子のお口にください」
その言葉にほんの少しだけ、千章の口元が緩んだかに見えた。
そして白金のクレヴァスより、見事な反りを見せる陰茎がゆっくりと曳き抜かれる。
それに媚びるよう顔を寄せると、自ら滴らせた淫蜜で頬が冷たく濡れる。
細い指が絡み付き、むき出し生身の陰茎が、薄く淡い口元に消えて行く。
頬を窄め舌先を絡ませながら細い首を前後させ、右手は優しく陰嚢を包み込み睾丸を転がし始める。
その様を見下ろす千章の視線の先には、美しい黒髪に浮かぶエンジェルリングが映る。
「ちゅぶっ、ちゅぶっ、ちゅぶっ……」
清らかな横顔とは不釣り合いな淫音は、加速度を増しその口元よりあふれ出す。
時折上目使いで千章の表情を伺う恵利子の視線は、艶めかしくも僅かにあどけなさを残す。
ふとっ、千章の指先が恵利子の黒髪を愛でる様に触れる。
それは無言の前兆…… 恵利子の意識は集中をみせ、口元にはよりいっそうの熱がこもる。
再び触れた指先が手入れの行き届いた黒髪に絡む時、恵利子の両腕が千章の腰を抱え込むようにまわる。
“男”の自分への想いが、口内に放たれるのを感じる。
「んぐぅっ、んぐっ、んぐぅぅ」
口内一杯に満たされた“想い”を一滴も溢すまいと、喉を鳴らせて飲み干す恵利子。
すると不思議なまでに、全身に残る疼きと渇きが静まって行く事を感じていく。
(もう…… わたし…… これは、わたしの、私だけの“もの”)
繰り返された射精により硬直が失われ始めた陰茎に指先を這わせ、尿道に残る精液さえ欲し頬を窄め舌先を絡ませる少女の横顔に妖しい力が宿り始めようとしていた。
(もう一度君に逢えたら…… 君に逢いたい)
(必ず…… 次の私が必ず貴方を受容れます)
その不思議な約束は18年の時を経て、石崎佑香が口にした通り……
…… 娘である磯崎恵利子によって果たされる事になる
時を越え、世代を超えて……
それは通常世界における契りに在らず、互いの“血”混じりて変容をうながす次へのステップと言えた。
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