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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 4.-9

「おい、これ以上ユリさんになんか言うたら、お前ホンマに殺すぞ」
「――なに? 私悪モン? ……なんで?」
 美夕は泣きながら嘲りの笑いを浮かべて後ずさり、
「お前ら、死ねっ!」
 と叫んで走り出した。
「……よ、陽太郎くん」友梨乃は顔を伏せ、まだ陽太郎と手を繋いだままだったが、もう一方の手で袖を引っ張った。「追いかけて」
 しかし陽太郎は冷淡に美夕が曲がり角に消えるのを見送っていた。
「陽太郎くんっ……」
 友梨乃がもう一度急かすと、陽太郎は手を引いて美夕の去った方向とは逆、自宅の方へ向かった。
「……ええんです」
「よ、よくないよ……」
 しかし陽太郎は無言のままドアを開けると友梨乃を強く引き入れて閉め、鍵をかけた。すぐに正面から強く抱きしめる。
「んっ……」
 身を固くする友梨乃に構わず、陽太郎は頭を掴むと荒々しく唇を押し付けた。友梨乃は唇を強く閉じていたが、息苦しくなって、
「よ、陽太郎く、……」
 呼びかけようと緩めた口の中に舌が入り込んでくる。
 陽太郎は激情の遣り場を友梨乃に向けて、男を剥き出しにして友梨乃の唇を貪っていった。肩に置かれた友梨乃の手はずっと拳を作っている。
「あっ……」
 唇を深く交わしながら友梨乃を抱きかかえるように部屋の中へ押し込んでいく。靴も脱がさず蹌踉とする友梨乃をベッドの上に荒々しく押し倒し、身を被せて唇を吸い上げる。
「んっ……、はっ……」
 友梨乃の身は固い。陽太郎は首筋を吸いながら友梨乃のコートの中に手を差し入れて、紛い物ではない真実の胸乳を鷲掴みにして情欲をぶつけた。「やっ……」
 腕を縮ませて抗おうとする友梨乃を払って、何度もバストを揉みしだいていく。身を捩った隙に脚の間に自分の膝を割り入れると、徐々に脚を開かせていった。
「よ、陽太郎くん」
 友梨乃の声が涙で歪んでいる。陽太郎は素早く身を起こすと、膝で脚を割っていたところへ自分の体を全て入れ、肩に背負うように片脚を抱きかかえるとスカートの中に顔を埋めていった。香水に混じって、一日働き、長い距離を歩いた友梨乃の汗の匂いがする。最奥では白地に黒の縁取りのショーツの丸みが見えた。
「やっ……!」
 陽太郎の唇が触れた瞬間、肩に背負った脚がビクンッと暴れた。ショーツの表面は友梨乃の体温と汗に僅かに蒸れていたが、悦びの潤いは全くなかった。いつも指で触れると体が艶めかしくくねるクリトリスが潜む場所へ、クロッチの上から舌を押し付けたが、友梨乃の下肢はわなわなと震えるだけで、性楽はどこにも起こってこなかった。
「陽太郎くんっ……、お願い……、……っ、……やめて」
 友梨乃は溢れてくる涙に息をしゃくらせながら訴えた。「ごめん……、ごめんなさい。……許して」
 スカートの中から顔を上げると、両手で顔を塞いで友梨乃は嗚咽を漏らしている。ついさっきまでお互いを包んでいた睦みは影も形もなくなっていた。
「ユリ……」
「ごめんなさい。……ごめんなさい」
 できるとは思っていなかった。陽太郎は友梨乃の体を弄り、スカートの奥へ口を押し付けながらも、ジーンズの中は軟かく萎え、漲動は起こってきていなかった。友梨乃の傍に添い寝して、顔を隠して泣き濡れる恋人を横身にすると頭へ手を回し抱き寄せた。陽太郎の首に手の甲ごと顔を押し付けると、身を丸めた友梨乃の涕泣が大きくなった。




 鍵を開けてドアを開くと、リビングは灯りがついていた。午後休暇だった智恵がいるのだろう。ブーツを脱ぎ、自分の部屋に入ろうとすると、
「ユリぃー」
 と閉まっていたリビングのドアの向こうから智恵の呼ぶ声が聞こえた。
 陽太郎の腕の中で泣いたまま、まどろんでしまった。目を覚ますと陽太郎の優しい顔があった。ずっと見守ってくれていたのだ。
「……ひどい顔だから、見ないで」
 瞼が熱い。友梨乃は再び陽太郎の首元へ顔を埋めた。
「何かで冷やしますか?」
「変に冷やしたりすると余計に腫れるんだよ?」
 擦り寄る友梨乃を力を込めて抱きしめてくる。布団からは女に変わった陽太郎がいつも纏っているバニラの香りがした。
「――すみませんでした」
 陽太郎が静かに言った。
「こわかった……」
 友梨乃の言葉に陽太郎は無理矢理姦そうとしてしまったことを激しく後悔した。友梨乃はきっとまた固く扉を閉ざしてしまった。
「嫌いになりました?」
 友梨乃はじっとしていた。姦されそうになったことだけではなかった。美夕の前で敵意を剥き出しにして凄んでいた陽太郎が押し倒して迫ってきたとき、その別人のような猛威がいつか自分に向けられる時を想像して怖くなったのだ。いつか、陽太郎は後悔するかもしれない。自分に合わせるために女装という行為を繰り返していることを、自分のせいで異常性欲に目覚めてしまったことを責めてくるかもしれない――。


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