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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 4.-8

 肩に額を押し付けてきた友梨乃に囁いた。
「……怖くない。……いっぱい人いるから恥ずかしい」
 陽太郎は胸が強く締め付けられ、こんな力不足だった自分なのに、と友梨乃が持っていたカットソーの入った袋を手に取り、空いた手を握った。友梨乃が握り返してくる。そのまま歩き始めた。陽太郎は体温の低い友梨乃の手を握って歩きながら、
「タイミング悪い……」
 と言った。
「ん?」
「こっから落合まで遠い」
「……そうだね」
「俺が抱きしめたぁ、って思てるときに、ユリさんが抱きしめてくれ、って言うてくれたのに」
「うん……」
 手を繋いで歩きながら、友梨乃が身を寄せてきた。豊かなバストが二の腕に当たる。ショーウィンドウに二人の姿が映った。今は男の姿だ。しかし友梨乃は身を触れさせてきている。「早く帰ろう?」
 扉が開きかけている――。少し頬を赤らめて言う友梨乃の手を引いて、陽太郎は何かに追われるように思わず歩みが早くなっていく。引っ張られながら友梨乃も懸命に早足でついてきてくれる。銀座駅から日本橋まで戻ると東西線に飛び乗った。地下鉄の中でも手を繋ぎ、ドアの前に立って身を寄せあっている。周りからはベタベタして鬱陶しく見えているだろうがかまわなかった。日本橋から落合までの駅の多さを恨みながら、友梨乃の髪から漂ってくる麗しい香りと、体に感じる柔らかな胸乳にジーンズの中が痛くなる。電車が揺れて友梨乃の体にも触れると、硬い感触に一瞬驚いて髪を揺らした友梨乃だったが、微笑んで潤んだ瞳を向け、唇の動きだけで、す、き、と告げてきた。微笑みで応えると、友梨乃は眉間を寄せて睨んできたから、苦笑いをしながら、同じ唇の動きをした。何やってんやろな、ほんまアホや。そう思いながらも、陽太郎は今から遂げようとしている喜びに、みんな俺達を見ろ、と声に出したい衝動すら覚えた。
 会話はなくそんなことを繰り返しながら落合駅を降りた。家路を急ぐ。
「……ユリさん」
「ん?」
「まだ抱きしめられたいです?」
 銀座から随分時間が経っていた。友梨乃は握られていた手を指を組み合わせるように握り変えると、
「さっきよりも思ってる」
 と言った。早稲田通りから小道へ入る角を曲がると自宅が見えた。「……聞いてきたクセに、陽太郎くんは言ってくれない」
 傍らから聞こえる拗ねた甘え声に心を疼かされて、家に入るなり押し倒さんようにせんとなぁ、と自分を戒めながら笑って友梨乃の方を向くと、
「俺も、そら、ユリさんを早く――」
 言おうとした目線の先に人影を感じると同時に、
「はい、げんこーはーん」
 という声が聞こえてきた。腕組みしたまま恐ろしい顔で近づいてくる。
「何やお前……」
 友梨乃も陽太郎が呟いた先を見た。「学校は?」
「んー? 彼氏が浮気してる現場抑えるためにズル休み」
「もう別れてる。浮気やない」
 会話を聞いているうちに、友梨乃は相手が美夕であることがわかった。パーカーワンピースのポケットに両手を突っ込んだまま、二人を睨みつけている。いかにも後輩らしい、小さくて華奢で、女の子らしい可愛い子を勝手に想像していたが、意外にも背も高めで、まっすぐな黒髪にハッキリとした面立ちは、その気性の激しい性格を余計に怒り顔に滲み出させていた。
「別れてへんよ。私認めてへん。私のこと裏切った先輩、まだシバいてへんしな」
「……ほんじゃシバけや。そんで終まいやろ?」
 陽太郎は肩が動くほどの深い溜息をついて言った。自分の前では見せたことのない、冷酷で、しかし相手を威嚇しているような陽太郎の顔を見ていられず、友梨乃は俯いた。
「何、居直っとんねん。そんなにその女好き?」
「ずっと言うてるやんけ」
「そんなアホみたいにデカいオッパイにハマったんや。……あんた、何したん? 私の彼氏に。そのオッパイ使こて、人の男取ったんや?」
 美夕が一歩友梨乃の方に近づこうとすると、陽太郎は手を引いて自分の影に友梨乃を隠した。「あー、なん? 先輩、その女、守るつもり?」
「当たり前やろ? はよ俺シバいて帰れ」
 陽太郎を睨んでいた美夕の瞼がやがて震え始め唇の端が下がる。鼻を啜って涙を堪えているようだった。
「……先輩シバくのやめ」涙目で友梨乃を睨みつけて、「その女シバかせて。シバかせてくれたら、浮気したんも許したげる」
「やめとけ」
 陽太郎は低く濁った声で、舌を巻くような喋り方になっていた。「そんなことしたら、お前殺すぞ」
「彼女に殺すとか言うんや?」
「お前なんか彼女ちゃう、っちゅーてるやろがっ!」
「ひどいっ!」
 美夕は涙をはらはらと流した。二人の会話を聞いている友梨乃も恐怖に震えながら瞼が熱くなってくる。
「おいっ! おまえ、人の彼氏パクったクセに、何か言えやっ!」
 美夕が友梨乃に牙を向いてくるが、顔を上げることができない。「いつまで手ぇ繋いどんねんっ!」


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