鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 3.-9
枕に額を押し当てながら、ディルドを自分に押し込んでいくと、傘が中を広げてくる感覚に友梨乃は結んだ唇の奥でくぐもった呻き声を上げた。陽太郎の名を呟きながらディルドを挿抜させると、張形に内壁を擦られて心に残る違和感が削ぎ落とされていくようだった。早くこうして陽太郎に抱かれたい。ディルドから送り込まれる快美に震えて何度も言い聞かせていた。陽太郎への愛しみと後ろ暗さがない交ぜになりながら友梨乃はここ数日溜め込んでいた淫らな不満を癒していった。
しかし絶頂の余韻の中で、自慰の最中ずっと考えていた陽太郎は女装をした姿で、最後まで男としての陽太郎が脳裏に現れなかったことに気づいて、友梨乃はディルドを脚の間からシーツの上に落とすと、枕に押し当てた顔を頻りに左右に振った。
ベッドの上に並んで座り、肩を陽太郎に抱き寄せられて甘いバニラの香りに酔いながら唇をそっと押し当てられると、友梨乃は震えがくるほどの心地よさに包まれた。陽太郎が唇を離すと、唾液を飲み込んで顎を上げた表情を見せて、もう一度キスをするように催促する。陽太郎は自分が塗った厚いグロス越しの唇の感触を残念に思いながらも、それでも愛しい友梨乃の唇に触れるのは無二の喜びであるから、震えた鼻息を漏らしながらもう一度唇を触れた。んっ、と漏れる友梨乃の声を聞いて、そのまま押し倒したい衝動を必死にこらえながら、唇どうしが撥ねる音を立てて何度もキスをしていた。
「……陽太郎……、くん」
薄目を開けて潤んだ瞳で呼んだあと、陽太郎のこめかみに額を擦りつけた。
「ん……?」
「すごいね」
友梨乃は陽太郎の袖を掴んでいたのを離して、思わず首に腕を回して力を込めて抱きついた。腰に手を巡らせて擦り寄ってくる友梨乃の体を引き寄せると、バストの柔らかみが脇腹に押し当てられて更なる自制心を求められる中、
「何が?」
と陽太郎は耳元で尋ねた。
「会う度に……、なんか、……平気? ……になってる、と、思う」
言いながら無意識のうちに友梨乃は陽太郎の頬に唇を押し当てた。「……うまく、言えなくて、ごめんね」
「……ユリさん。……好き、です。……めっちゃ好き」
陽太郎が頬から一気に項と背筋を駆け抜けた癒やしに痛いほど鼓動が早まって、照れてなかなか言えないような言葉を言って友梨乃を引く力を強めると、うん、と小さく言った友梨乃が応じて更に体を押し付けてくる。頬を擦り合わせている狭間に温かい雫が染み落ちてきた。
「また、泣いちゃったけど、嬉し涙だよ?」
「……わかってます」
家を訪れニットワンピース姿になった陽太郎を見て、友梨乃は驚嘆するとともに、惹き寄せられる美しさに抗うことができずに自分から陽太郎の傍に座って、唇を向けてキスを求めてしまった。目の前の美しい人が自分を恋いてくれている。陽太郎が抱き寄せてきても、当初は反射的に身を固くしていたのに、今や自ら身をすり寄せるまでになっている。陽太郎は今まで会った誰とも違う、自分にとってかけがえのない存在になりつつある。自ら望んでなってくれようとしている。そう考えると、あまりの嬉しさともったいなさに涙が溢れてきた。
「ユリ……、さん」
「ん……?」
頬を離して間近で顔を合わせる。目の前にある、最早完璧にも思える美しいメイクを施した顔も瞳が潤んで上気していた。
「あの……」
「なに?」
部屋で二人きりなのに、熱い吐息の混じった囁き合いだった。
「……もう少し、キスしていい?」
「うん。……いいよ」
陽太郎の手が髪を梳きながら頭を撫でてくると、和みの溜息が漏れた。早く唇に触れて欲しいと思った。
「ユリさん……」唇が1センチも離れていないところまで顔を近付けて陽太郎が囁いた。「口開けて……、舌、出してもらえますか?」
「え……」
陽太郎の言葉にドキリとしたが、それが自分自身の期待の鼓動だと分かると、友梨乃は切ない嘆息を漏らして唇を僅かに開き、震える舌先を差し出した。陽太郎の鼻息が鼻先にかかる。やがて伸ばした舌の縁を同じく唾液に滑る柔らかい舌先がなぞってくると、口を開けながら高い声で息が漏れた。尖った舌先が上下に縁を弾いてくると、友梨乃も陽太郎の動きに合わせて舌先を動かす。ピチャッと唾液の撥ねる音が聞こえてきて、より妖淫な気分になってくる。ずっと唇を開いていると、口の端から溢れてくる唾液が涎となってこぼれてそうちなった。
舌先を離して見つめ合う。お互いの顔を覗き込みながらどちらからともなく、ふっとふき出して笑ってしまった。
「……こんなにいっぱいしてたら、リップ落ちちゃうね」
「また、塗りますよ」
「うん……」
「何回でもしてたい」
と陽太郎は言ったが、顔を近づけている友梨乃の死角で、ニットワンピースの中で男茎が最大まで張り詰めていた。友梨乃の香りに包まれ、体に友梨乃の柔らかみ、特に押し付けられているバストの感触に、あの暗闇の中で直に確かめた姿を否応にも思い出させられながら、舌先を絡め合うキスをしているのだ。収めろと言うほうが無理だった。硬く張り詰めて膨らんだ股間が友梨乃に触れて気づかれないように注意も払いながら、しかし手の中にある友梨乃を少しでも長い時間抱いていたかった。
「……あ、あのね、陽太郎くん……」
そんな陽太郎の苦労をよそに、友梨乃は顔を伏せて言った。