痴漢専用車両お楽しみバージョン出発進行-3
「どうしてでしょうね?」
流石の星司にもこの段階ではわからなかった。
せっかく楽しみにしていたメンバー達に、【お楽しみバージョン】の中止は言い難い。もし、そうなった場合、全ての手配をした陽子の反応を見るのが特に怖かった。星司は少し考えてから答えを出した。
「とにかくプレイはこの車両でしかできません。これは守らないといけない約束事であり決定事項です。かと言って、強引にここに連れ込むのは止めましょう。それをすると、少し主義に反しますので」
広義で言えば【痴漢専用車両】は立派な犯罪行為になるが、【痴漢専用車両】の面々にとっては、その場に居た者にする行為と、その場に強引に連れ込んだ者にする行為とでは、その意識に雲泥の差が有った。
「取り敢えず、プレイヤーの皆さんに配置に付いて貰って下さい。それと、反対の車両のガード役を何人かこちらの車両に移動させて下さい」
【痴漢専用車両】の運行時、前後の車両から中の行為が見えないように、連結口の周辺に複数のプレイヤーが視線を遮るガード役として配置していた。今回は特に4人の乗客の目から行為を遮らないといけない。星司はガードの配置を少し変更して、女性客が居る方の車両の人数を増やそうと考えた。
「それでもこちらの様子に気付いて騒ぐようなら、その時は眠って貰いましょう」
普段からそんな対応できるように、ガード役には前回手島がBタイプの女性客を眠らせた薬を携帯させていた。
「その人達の様子が見たいので、後方の車両には私が行って伝えてきます。手島さんは前方の車両に行って、ガードの手配を頼みます」
星司は指示を出すと、隣の車両に静かに向かい、手島も前方の車両で待機していたプレイヤー達に打ち合わせ内容を伝えに行った。
優子はその様子をキョロキョロと見ていたが、好奇心を抑える事ができなくて星司の後を追いかけた。後に残された陽子は、優子の後ろ姿を見ながら「やれやれ」と言って苦笑いを浮かべた。
追いついた優子に対して、星司も陽子と似た苦笑いを浮かべたが、特に何も言わなかった。
優子は立ち並ぶプレイヤーの影から4人の様子を窺った。すると車両の中央で楽しそうに話している4人の姿が目に入った。
(何を楽しそうに話してるんだろう?こっちの車両に来たらもっと楽しい思いができるのに)
優子にとって、楽しい事の上位は性行為に他ならない。そんな思いを発する優子に構わず、星司は今日のガード役に指示を伝えた。それが静かにプレイヤー達に伝わっていく。
4人の乗客が思惑通りに乗り込まなかったので、新規のゲストは望めない。しかし、待機していた車両に優子が入って来た瞬間、その露出の多い肢体にプレイヤー達の視線が釘づけになった。それに今日は優子と陽子の他に、前方の車両には由香里と寛子が乗り込んでいた。例え新規の乗客が居なくても、楽しいプレイができそうなので、プレイヤー達はワクワクしながら移動を始めた。
ゾロゾロと移動しだしたプレイヤー。車両の中央で取り残された4人の女性客が、会話を止めて顔を見合わせた。
すると予想外の事が起こった。
主婦風の女の一方が、プレイヤー達の後を追って付いてきたのだ。そして残りの3人もそれに続いた。
予想外の事に驚く優子。4人がその優子の前を通る時に、大学生風の女が先頭で進む女に声を掛けた。
「もう、お母さんたら、付いて行ってどうするのよ?」
これまた予想外の人間関係に優子の驚きは増した。
(お、お母さんですって!わ、若い!)
優子は自分の母親と比べた。優子の母親も歳より若く見えるが、先頭を行く女の艶々とした肌は、どう見ても30代前半に思えてしまった。
娘の問いに、応えたのは母親ではなく、もう1人の主婦風の女だった。
「『どうする』って。何だかわからないけど面白そうじゃない。さすが美弥子さんね、あの好奇心は凄いわ。恵子ちゃんの姑であるあたしも見習ってるんだから、実の娘である恵子ちゃんも見習わないとダメ。もっと好奇心を持たないと、美弥子さんみたいに若さを保てないわよ」
「まあ、お義母様まで」
(『姑』、それに『お義母様』ですって!この子って、こんなに若いのに結婚してるって事?それにこの姑も艶々じゃないの!)