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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 2.-12

 友梨乃はしゃがんだまま陽太郎を見上げると、陽太郎の背後を指さした。振り向くと壁際にドレッサーが置いてある。そちらに身を向けると、ちょうど首から下だけが鏡の中にあった。
「……ぜんぜん、ちがいますね」
「普通に私の服が入ってるってのがショックだよ。……メイクもしてみる?」
 返事を待たず、立ち上がった友梨乃は陽太郎を押していってドレッサー前に置かれた椅子に座らせた。
「あ、いや……」
「メイクはしようと思わなかったの?」
 女物の服を着てここまでやってきた陽太郎だったが化粧はしていなかった理由を質すと、
「……なんか難しそうですし、その……」
 陽太郎は言い淀んでいた。
「ん? なに?」
「そこまでしたら、なんか……、完全アウトのような気がして。行っちゃいけない世界に行ってまう、みたいな」
 と言って陽太郎が笑うと友梨乃も笑った。
「中途半端なほうがアウト、だよ」
 ドレッサーの鏡に映る陽太郎の背後から覗き込んで、「藤井くんならできる」
「……なんなんすか、その励まし」
「とりあえず、顔洗ってきて。洗面台の横のタオル使っていい」
「……」
「……突然家に来た藤井くんが目覚めた変な趣味に付き合ってあげてるんだよ?」
 友梨乃がいたずらっぽい笑顔で睨むと、陽太郎は一息ついたあと立ち上がって洗面所へ向かっていった。水の撥ねる音が微かに聞こえてくる。陽太郎に女物の服を着せることが友梨乃は楽しかった。落ち着いて深く考えれば、セックスを途中で止め、女としか交わることができない自分を告白した相手が女装して家にやっている状況は、こんな悪ふざけをしている場合ではない。だがそれを忘れて、友梨乃は素直に応じて変容していく陽太郎をもっと見てみたかった。
 陽太郎が戻ってくる。ドレッサーの椅子にもう一度座らせると、脇に置いたカゴから化粧下地を取り出すと手にとって、
「こっち向いて」
 と陽太郎を鏡の方向から横に向かせた。「顔、上げて」
 額や鼻筋、頬に置いた粒玉を塗り伸ばしていくと、友梨乃の指に顔を擦られる感覚に、陽太郎は目を閉じて顔を上げながら陶然と小鼻を膨らませている。友梨乃は陽太郎に下地を塗りこみながら、改めて近くで見るとヒゲが薄い滑らかな素肌を見ていた。本当にこんなの世間の女の子が見たら嫉妬するだろうな、という肌のきめ細やかさに感心しながら、
「スキンケアとかしてる? もしかして。キレイすぎる」
 と訊いてみた。
「いえ、普通に洗顔してるだけです……」
 まるで美人女優やモデルが「美しさの秘訣は?」と問われて「何もしていない」と謙遜しているのが思い出されて、陽太郎の見えていないところで恵愛の滲んだ笑みを漏らした。
「あんまりそういう事、女の子の前で言わないほうがいいよ。嫌われる」
「……嫌いになります?」
「目、開けちゃだめだって」
 不安に薄目を開こうとした陽太郎を制した。「私は、大丈夫だけど」
 リキッドファンデーションを伸ばしながら、色味が心配だったが陽太郎の肌色に馴染んでいくのに安心して、とはいえ男だから至近だと見えるヒゲの毛穴を埋めていった。更に陽太郎の肌の良さが際立っていく。友梨乃は自分に施すよりも丁寧にファンデーションを塗りこんでいった。友梨乃に顔をいじられて、長めの睫毛が細かく震えている。
「……ユリさんを諦められなくて、こんなことしました」
 暫くお互い無言で静かな時間が続いたが、唐突に陽太郎が口を開いた。
「ん。さっきも聞いたよ」
 眉毛弄りたいけど、そこまでしたら怒るかな、と思いながら、パウダーファンデーションで調整したあと、顔の起伏にシャドウとハイライトを入れていく。
「……でも。女の、……女の人のカッコしたら、なんかドキドキしました」
「藤井くん、スゴいこと告白しなくていいよ」
 友梨乃は笑いながら、背を後ろに反らせて陽太郎の顔との距離を取って陰影を確認しながら言った。
「ハマりそうでコワいっす」
「……お化粧までしたら、たしかにアブナイかも」
 チークを筆に取って頬へなぞらせると、初めての毛先の感触に陽太郎がピクッと震えた。
「興奮してる……? キレイになってく自分に?」
 友梨乃は陽太郎の顎に手を添えて筆を優しいタッチで滑らせながらからかう。
「イジメんといてくださいよ……」
「うん……、ごめん、私すごく楽しい」
 喜んでいる友梨乃の声を聞いて、陽太郎は悦美の震える表情を見せた。告白された時も、ベッドに誘ったときも、こんな気持ちにはならなかったのに、友梨乃は今の貌に胸が熱くなって、愛しく思う気持ちが衝いた。陽太郎の頬に羞恥と幸福の赤みが帯びるから、チークの色合いを調整するのに腐心する。だがそれすら楽しい。陽太郎の顔が自分の手で洗練されていくので、
「……藤井くん、もっとしてもいいよね?」
 と念を押した。


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