上司と部下-4
天井を見ながら考え事をしていると海斗の顔が浮かんで来る。
(ただの上司だったならこんな思いはしないのに…。)
もしかしたら初めから海斗に惹かれていたのかも知れない。しかしその気持ちに気付くのが怖くて封印していたのである。そして海斗の人知れず与えてくれる優しさを感じ始めた今、海斗をただの上司としてだけ見るのが困難になってきたのだ。
「きっとこの感情を口にしたら私…」
あるワードが自分の中の気持ちの封印を解く事を知っていた。それを口にしてしまえば明日から今まで通りに接する事が出来なくなりそうで怖くなる。幸代はその言葉を飲み込んだ。
「私も…女なんだな…。」
幸代はそれが嬉しいような苦しいような、そんな複雑な感情に悩み始めた。
次の日、もはや海斗を見る目が変わっていた幸代。当然海斗はいつもの通りだ。
「うーっす!」
馬鹿っぽく事務所に入って来た。
「昨日はお疲れさん。今日は午後からギャルとデートだな!」
安田部長がニカッと笑いながら言った。聞こえていた幸代は恥ずかしくなる。
「有給デートってか?悪くねーっすね!金になるデートさせてくれるなんていい会社だな、幸代!」
「え…あ、は、はい…、いや、はいって言うか…」
言葉に困る幸代。そんな幸代に津田聡美が歩み寄る。
「デートってサッカーだけ?」
「えっ…?」
目を輝かせて聞いてきた。
「その後とか…、 ウフフッ!」
「な、ないよ!その後とかなんて!」
顔を真っ赤にしてむきになって答えた。
「いいなー、私サッカー好きなんだよね。代わってあげる??」
知香が割って入る。海斗が現を抜かす知香にもむきになってしまう。
「わ、私もスポーツ用品の営業としてもっと競技を勉強しなきゃならないから行きたいの!」
そんな幸代の肩をポンと叩き、ニヤッとしながら言った。
「頑張ってね、幸代♪」
完全に応援態勢だ。
「が、頑張ってって何を…」
「ンフフ♪」
知香は自分のデスクに戻って行った。
(い、意識しちゃうじゃない…)
幸代は照れ臭そうに頭をかいた。