思い込み-3
――次の土曜日。
先週と同じように居酒屋『らっきょう』で食事をした後、勇輔と冬樹は『酒商あけち』の二階、勇輔の部屋にいた。
勇輔は冬樹の眼鏡を外し、ベッド脇のサイドテーブルに置いた。
冬樹はベッドの上で正座したまま、その澄んだ目でじっと勇輔の顔を見つめた。
「な、なんだよ、どうした? 冬樹」
「言います」
「は?」
「僕は決心しました。先輩を名前で呼ばせて下さい」
勇輔は呆れ顔で返した。「ばあか、なに深刻な顔してんのかって思ったら……。いいよ。無理すんな。こないだは俺が悪かった。お前の気持ちももっと尊重しなきゃいけなかったな」
冬樹はふるふると首を横に振った。「僕も、一歩前進しなきゃいけないから……」
「大げさだぞ、冬樹」
「だって!」冬樹は大声を出した。勇輔はびっくりして目を見開いた。
「キスしてほしいんだもん……」
涙ぐんだ目で冬樹はじっと自分を見つめている。
勇輔は胸に締め付けられるような痛みを感じ、思わず冬樹を抱きしめた。「冬樹っ!」
そして彼は冬樹の髪を何度も撫でながら震える声で言った。「ご、ごめんな、冬樹、おまえをまた追い詰めちまった。悪かった、俺が悪かった」
勇輔は冬樹の肩に両手を置き直して、もう一度その目を見つめた。
そして、ゆっくりと口を彼のピンク色の柔らかな唇に重ね合わせた。
勇輔が口を離した時、冬樹は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。「勇輔……」
勇輔はにっこり笑ってもう一度冬樹の身体を抱きしめた。そして冬樹の耳元で囁いた。「もう泣くな」
二人はベッドで全裸になっていた。
「ねえねえ、せんぱ……じゃなかった勇輔」冬樹は恥じらいながら言った。
勇輔はくすっと笑って横目で冬樹を見た。「なんだ?」
「咥えていい?」
「咥える?」
「うん。勇輔のこれ」
冬樹は勇輔の腰に手を回し、もう一方の手の指先で、その大きく反り返ったものを軽くつついた。
勇輔はごくりと唾を飲み込んだ。「く、咥えるのか? こ、これを?」
「大丈夫、歯を立てないように気をつけるから」
冬樹はそう言って、勇輔を下にして四つん這いになり、そっと舌を勇輔のペニスに這わせ始めた。
「ちょ、ちょっ!」勇輔は慌てた。
冬樹はその行為を続けた。
得も言われぬ快感が身体を駆け抜け、勇輔は思わず仰け反った。
冬樹は慎重にそれを咥え込み、ゆっくりと口を動かしながら唇で包み込んだり、咥えたまま舌で舐め回したりした。
「うああ……」勇輔はため息交じりに甘い喘ぎ声を出した。
冬樹は口を離した。「気持ちいい? 勇輔」
「ちょ、ちょっと待て、冬樹」勇輔は慌てたように言って頭を枕から持ち上げた。
冬樹は口を離して上目遣いで勇輔を見た。
「お、おまえ、それ、イヤじゃないのか?」
「どういうこと?」
「む、無理してやってんじゃねえのか? だ、だっておまえ初めてだろ、そんなことすんの」
冬樹は身体を起こした。「初めてだけど……。なんでいきなりそんなこと訊くのさ」
「イヤなら無理してやんなくても……」
冬樹は口角を少し上げてゆっくりと言った。「また臆病者の勇輔になってる」
「お、俺はおまえもちゃんと快適で気持ちよくなってもらってだな、」
冬樹は柔らかく笑った。「快適だし、気持ちいいよ、当然。だって、大好きな勇輔の身体の一部が僕の口の中に入ってくる、っていうことだもん」
「そ、そういうことなのか?」
「それに、これで勇輔が気持ちよくなってるわけでしょ? 僕だってそれはうれしいよ」
「冬樹ー」勇輔は泣きそうな顔になっていた。
「勇輔はイヤなの? 舐められたり咥えられたりするの」
「き、気持ちいい……」勇輔は顔を赤らめた。「すんげー気持ちいい」
冬樹はふっと笑った。「じゃあ続けさせてよ」
「う、うん」
冬樹は口を大きく開き、勇輔の太く硬くなったものを再び喉の奥まで咥え込んだ。
「うあああーっ! ふ、冬樹、冬樹っ!」
にわかに勇輔は身体をよじらせ喘ぎ始めた。
ぐぶっ、ごふっ、という音を立てながら、冬樹はその動きを大きくしていった。
勇輔の身体の奥で、熱い激流が渦巻き始めた。
「ふ、冬樹っ! も、もうイく! 俺、出る、出るっ! 口離せっ!」
全身汗だくになった勇輔は叫んだ。
冬樹は口を離さなかった。そのまま勇輔のペニスを深く喉の奥まで咥え込んだまま、動きを止めた。
喉元でぐううっ! という音を立て、勇輔は身体をビクビクと大きく震わせた。
勇輔の熱い想いが何度も冬樹の口の中に弾け出した。
「うわああーっ! 冬樹、冬樹っ! 出てる、お、おまえの口に出てるっ! あ、ああああーっ!」勇輔は慌てて上半身を起こし、ひどくうろたえた。
冬樹はじっと目を閉じたまま、口の中に広がる勇輔の体温を夢見心地で味わい続けた。彼の唇の隙間から、とろとろと白い液が大量に垂れ落ち、勇輔のヘアを濡らした。