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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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思い込み-2

「勇輔、おまえはそもそもセックスするために冬樹とつき合うとるんか?」
「……」

 ケネスはふっとため息をついた。「冬樹、しょげてたで」
「えっ?」
「『僕が先輩に乱暴したのがいけなかったんだ』っちゅうて」
「冬樹、おっちゃんに話したの?」
「先週学校のプールで、おまえら初めて抱きおうたんやって?」
「う、うん」
「そん時も、冬樹、おまえを押さえつけてイってしもたらしな」
「激しいんだ、冬樹。そんなのが……好きらしい」
 勇輔はまたうつむいた。

 ケネスは勇輔のカップの横に置いたクリームの小さな容器を持ち上げた。
「おまえ、実はコーヒーにはクリーム入れて飲んだりせえへんのやろ?」
「え?」
「甘いモンが好きやから、っちゅうて、コーヒーも甘くして飲む、っちゅうわけやないんやろ?」
「おっちゃん、知ってて持ってきたの? クリーム」
「それと同じや」
「え?」
「おまえが甘いモン好きでもコーヒーはブラックしか飲まへんのと同じ。冬樹はワイルドなやり方が好みでも、おまえに突っ込んで気持ちようなろう、なんて思てへん、ちゅうこっちゃ」
「そうなのかな……」
「おまえ、冬樹に訊いてみたんか? そんな行為が好きか、って」
 勇輔は力なく首を横に振った。

「あのな、そもそもセックスっちゅう行為は、好き合うた二人の最高、最大の癒やし合いや。二人共気持ちようなって、満たされな意味がない。どっちか片方だけの独りよがりやったら、それこそ一人エッチと変われへんねんで」
「うん。わかる」勇輔は小さく頷いた。
「エロビデオなんかのメディアに振り回されんと、自分らのスタイルを見つけていかなあかんねん。時間掛けてな」
 ケネスはコーヒーをすすった。勇輔はケネスの顔を見て小さくため息をついた。

 勇輔はテーブルを見つめたままぽつりと言った。「思い出したよ、俺」
 ケネスはカップから口を離した。「何をや?」
「ケンタ先輩に去年、怒られたこと」
「怒られた? 健太郎にか?」
「うん。『思い込みで失敗すんな』って。部活ン時」
「へえ」
「これも思い込み……ってやつだよね」
「そやな」
「忘れかけてた……」勇輔はうなだれた。

 ケネスはまた自分のカップを持ち上げた。
「好きおうて、ずっと長く付き合うためには、お互いをよく知り合うんが先や。何も言わんとわかり合えるようになるのん、めっちゃ時間がかかるもんや。まずはもっとぎょうさん話さな」
「……」
「焦ったらあかん。な、勇輔」
 勇輔はこくんと頷いた。
「その上で、おまえらにしかできんことも少しずつ判ってくる。おまえと冬樹が、一番快適で燃える行為っちゅうもんも、そのうち見つかる」ケネスはにっこりと笑った。「AVなんぞ手本にせんでもな」
 ケネスは残ったコーヒーを飲み干した。
「そうだね」勇輔は小さな声で言った。

「ま、とりあえずしばらくはおまえらの相談相手になったらなあかんな。なんかあったら相談し」そして悪戯っぽくウィンクをした。「今度はちゃんとアポよこしてからな」
 勇輔は顔を上げてようやく安心したように微笑んだ。「ありがとう、おっちゃん」


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