大きな背中-12
柴原の一言で変な空気になってしまった車内。ハンドルを握る手の指が落ち着かない海斗に幸代から話しかけた。
「海斗さん、ありがとうございました。」
「い、いいよ、別に…」
どこか恥ずかしそうであった。
「私、一人じゃ何も出来ない人間なんだってつくづく感じました。もう独り立ちできると思ってた…。でもまだまだです。」
「まぁそんなにしょげる事はないさ。誰もが経験する事さ。」
「はい、ありがとうございます。」
海斗は海斗で柴原に言われた言葉に、幸代は幸代で海斗に感じる恩でお互いよそよそしくなってしまう。海斗が一番苦手な空気だ。ついついソワソワしてしまう。そんな中、幸代がとんでもない事を言った。
「もしこの恩を体で払えって言われたら…、私…、払ってもいいって思ってます…。」
「!?な、何言ってんだオメー!?馬鹿かっ!?」
思わずハンドルがブレた。それ程驚いた海斗。幸代も一体何て言う事を口走ってしまったんだと自分でも驚いてしまった。
「そ、そのくらい感謝してるって事ですよ!!ほ、ホントに体で払う訳ないじゃないですか!この私が…!」
「だよなー!あー、びっくりしたわ…。まぁオメーに興奮しそうもねーしな!ハハハ!」
「あ、酷くないですか〜!でも海斗さん、私を可愛い部下だって思ってるんですよね〜?それは後輩として可愛いって意味ですか?それとも女として可愛いって意味ですか?」
「し、知らねーわ!そんなの!」
「ねぇ、どっちですかぁ??」
「うるせー!!」
会社に帰る頃にはすっかりいつもの2人に戻っていた。そして事務所に入る時、幸代は大きな大きな海斗の背中を見つめていたのであった。