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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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本心-1

 翌週の月曜日は朝からやたらと蒸し暑い日だった。午後3時頃に音楽室を訪ねた冬樹は、いつものように音楽教師鷲尾彩友美に声を掛けた。
「こんにちは、先生」
 彩友美は微笑みながら振り向いて言った。
「いつも熱心ね。エアコンつけていいわよ」
「大丈夫です。窓開ければ結構涼しいし」
 彩友美は呆れたように言った。「今日はひときわ暑いわよ。せめて日よけにカーテン閉めるわね」
 冬樹は彩友美が椅子から立ち上がろうとするのを、慌てて制止した。
「あ、先生、僕がやりますから」
「そう?」
「お気遣いなく」冬樹はにっこり笑った。

「いつも朝から来るのに、今日はどうして?」
「い、いえ、ちょ、ちょっと午前中は家の用事で……」冬樹は不自然に目を伏せた。
「そう」彩友美は敢えて笑顔で言った。「じゃあ、好きなだけ練習していってね」
「ありがとうございます」冬樹はぺこりと頭を下げた。
 彩友美はドアを閉めた。

 やがて音楽室から冬樹が弾くピアノの音が聞こえてきて、彩友美は机に向かって仕事を始めた。

 それから30分ほど経った時、不意にピアノの音が止み、そのまましばらく音がしなかった。
 彩友美はそっと音楽室へのドアを開けて中の様子をうかがった。冬樹はピアノの前に座っていなかった。彼は東向きの窓際に立ち、じっと外を見ていた。彼があまりにも身動きもせず食い入るように一点を見つめていたので、彩友美は声を掛けるのを躊躇い、そのままドアを閉めた。
 彼女も準備室の窓から冬樹が見ていたプール棟に目をやった。
 その窓の中を見ると、丁度プールサイドに水泳部の男子部員たちが集合しているところだった。
「冬樹君、やけにじっと見てたけど……」
 彩友美は小さく呟き、もう一度その水着姿の男子の一団に目を向けた。
 隣の教室から冬樹の弾くピアノの音が再び聞こえ始めた時、その中の一人がはっとした表情で顔を上げ、こちらを見たのに彩友美は気づいた。
「あれは……二年生の明智君」
 その勇輔は、彩友美と目が合うと慌ててくるりと身体を反転させ、そそくさと奥に歩き去って彼女の視界から消えた。


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