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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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本心-2



 明くる火曜日は水泳部が午前中で終わる予定だったので、数日前にはうららは冬樹と二度目のデートの約束を取り付けていた。

 その日、3時少し前に『シンチョコ』に着いた冬樹は、前庭に立っている大きなプラタナスの木の下に置かれた木製のベンチに腰を下ろし、バッグから黒いカバーの掛けられた手帳を取り出した。そしてページをぱらぱらと開いたところで頬を汗がつっと流れるのを感じ、ポケットからダークグリーンのハンドタオルを取り出した。その時、彼を呼ぶ愛らしい声が聞こえた。
「冬樹!」
 冬樹は顔を上げ、思わず手帳を閉じて立ち上がった。
 息を切らして、うららがちょっと申し訳なさそうな顔をして冬樹の前に立っていた。「ごめん、待った?」
「ううん、僕も今来たとこ……!」

 冬樹は絶句した。うららの背後にポケットに手を突っ込んだ勇輔が立っていたからだった。

「ごめん、兄貴がついて来ちゃった。どうしても冬樹が見たいって」
「え? あ、あの……」
 冬樹は真っ赤な顔をしてうつむいた。
「でもデートまでは連れて行かないから安心して」
「なんだ、やっぱりおまえ、あの時の」勇輔が言って、前に進み出た。そして冬樹の前に立った。
 冬樹は恐る恐る顔を上げた。
「妹の彼氏って、おまえだったのか」
「いえ、あ、あの……」冬樹は顔をこわばらせた。「か、彼氏って言うか……」
「彼氏なんだろ? 今からデートすんだから」

 冬樹は黙り込んでまたうつむいた。
 その白い首筋に汗の粒が光っているのが見えた。勇輔は少しだけ頬を赤くして言った。「おまえのピアノ、いつも聞いてっぞ。うまいのな」
「そ、そんなこと、ないです……」
 うららが兄勇輔の腕を引いた。「もういいでしょ、兄貴、邪魔しないでよ」
 そして彼女は勇輔の背中を押しやりながら顔を冬樹に向けた。「ほんと、ごめん、こいつはもう帰すから」

 背中を押され、通りまでやってきた勇輔はうららに耳打ちした。「なーんか、なよなよしたヤツだな。おまえあんなのがいいのかよ」
「ほっといて!」うららは小さく叫んだ。「気が済んだでしょ、もう帰って」
「わーったよ」
 勇輔はそれでもちらちらと二人の方を何度も振り返りながら、ポケットに手を突っ込んでそこから歩き去った。


 映画館横の喫茶店に入って、冬樹とうららは向かい合って座った。
「ごめんね、冬樹、あんなのに会わせちゃって……」うららは申し訳なさそうに言って、紙おしぼりで指先をちまちま拭き始めた。
「ううん。平気だよ」冬樹はにっこりと笑った。
「がさつでしょ? がさつだよね、あいつ……」
「男らしくてかっこいいよ」
「そう?」うららは思いきり懐疑的な表情で返した。
「スポーツやってる男子、っていう感じじゃない」
「もう見てるだけでむさ苦しくって」うららは困ったように笑った。「夏の今なんか、寄ってこられるだけで暑さが倍増しちゃう」
 冬樹はあはは、と笑った。
「今日も暑いよね。外を歩いてなんかいられない」うららは手を団扇代わりにして顔の前でひらひらさせた。
「そうだね。僕もまだ汗が引かない」
 冬樹はバッグから手帳を取り出してテーブルに置き、その下に潜り込んでいたダークグリーンのハンカチを引っ張り出して額の汗を拭いた。
「いつも持ち歩いてるの? その手帳」
「え? う、うん」
「何が書いてあるの?」
「スケジュールが中心かな。僕って心配性で、忘れっぽいからこれに書いておかないと不安なんだ」
「そうなんだ−、しっかりしてるね」
「そんなんじゃないけど……」冬樹は頭を掻いた。
「冬樹の愛用品なんだね」
「う、うん。これが近くにないと、不安になる」冬樹はテーブルの上のそれに右手を乗せて、恥ずかしげに微笑んだ。「『ライナスの毛布』みたいなもんかな」
 うららも口を押さえて小さく笑った。


 うららの前にフルーツパフェ、冬樹の前にはアイスコーヒーのグラスが運ばれてきた。冬樹はシロップも入れずにそのグラスのストローを咥えた。
「苦くない? コーヒー」うららが上目遣いで言った。
「うん。平気」
「甘い物が苦手ってこと?」うららは、柄の長いスプーンで頂上に乗せられていたチェリーをすくいながら言った。
「苦手ってわけじゃないけど、あんまり甘い物は食べないな、確かに」
「こんなパフェとか」
「そういうのはこめかみが痛くなっちゃう」冬樹は笑ってまたストローを咥えた。
「じゃあ、チョコとかも食べないの?」
「僕『シンチョコ』の『リッチカカオ・ビターチョコ』が大好きなんだ」
 うららはチェリーの茎と種を左手のひらに出した。そして意外そうに言った。
「あんな苦いのがいいんだ、冬樹」
「カカオの香りが好きなんだよ」
「あたしだめ。苦いの。兄貴が飲んでたノンアル・ビールも飲んでみたけど、思わず吐き出しちゃったもん」
 冬樹は笑った。「大人になればおいしいって思えるんじゃない?」
「そうかなー」
 うららは生クリームをすくって口に運んだ。

「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
 冬樹が言って、席を立った。


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