由美子の母孝行-2
2.
「由美子、私に遠慮は要らないからね。なんせ、マンションと違ってこの家は、隣の声が筒抜けだから…」
由美子が博を案内して戻ると、耀子は由美子に耳打ちした。
「やあねえ、お母さんたら…」
「いいんだよ、私も嫌いな方じゃなかったんだから。死んだお父さんは結構テクニシャンでね、随分といい思いをさせてもらったよ。お父さんも私のヨガリ方がいいって喜んでいてね、だから世間にあるような浮気なんかで苦労しなかった。男ってのはね、相手の女がヨガルと喜ぶんだよ。変な手管を使うより、素直にヨガった方が男は満足するんだ。これが夫婦円満のコツだよ」
「だって、お母さんに聞かれているなんて思ったら…」
「それがいけないんだよ、やるときは全てを忘れてのめり込まなくちゃ。私もね、しばらくぶりに昔のお父さんとのことを思い出して、胸がドキドキしているんだよ」
「助平なおかあさんね」
「寝床に入ったら助平にならなくちゃ。気取っていたら駄目だよ。お前が嫌なら私が代わって上げてもいいよ。成仏する前に、せめてもう一度あんな思いがしてみたいものさ」
「お母さんがその気でも、博さんの方でお断りよ」
「まあ、そうだろうね。こんなばあさんを相手にするような酔狂な男はいないよ。ああ、でも父さんは好かったわ」
「さあ、もう明日にしましょう」
由美子は、待っている博のことが気になって、いつまでも滝のおしゃべりの相手をしている気になれなかった。
「私のことは気にしないでいいんだよ」
耀子はもう一度念を押すと、自分の部屋に引き揚げて行った。
由美子は念入りに身体を流すと、タオルで身体を拭うのももどかしく、部屋に戻った。
博と身体を交えるのは何ヶ月ぶりだろう。シドニーでの狂わしいばかりの睦ごとは、由美子の身体にすっかりと染み込んでしまっていて、東京に戻ってからも、眠られぬ夜が続いた。
博の愛撫で、すっかり由美子の肉体が円熟し、鏡に映る柔肌は自分ながら(美味しそう)に思えた。
(博さんが、きっと歓喜するに違いない)そんな思いが、今度の博との床入りを一層期待させた。
しかし、さっきの母の言葉が、いささか気に掛かった。
(男は、女がよがると喜ぶ)
言われてみればなるほどと思うが、そんなことは考えてもみなかった。いったい今までの自分はどうだったんだろう。博さんのよがり声で自分は興奮したけれど、自分がそれに答えるだけのことをしていたかどうか、全く気にしていなかった。