女になった由美子-1
1.
由美子は仕事に没頭した。没頭するように努力したと言った方が適切かも知れない。
博との夢のような逢う瀬が、ちらちらと脳裏を掠め、気が付くとパソコンのスクリーンをボーと見つめたまま、指の動きが止まっている。
あれから、五日が経っていた。
博の子どもが生みたいと言うエクスキューズで、一度だけの不倫だからと自分から仕掛けた博との情事の筈だった。
由美子の気持ちを博がどう受け止めたのか、由美子には計り知れなかったが、由美子が思っている以上に、博が由美子を愛していると感じて嬉しかった。
(あの人に、処女を上げてよかった)
自分の処女性をそれほど意識していた訳ではなかったが、博がそのことをとても喜んでいるのを知って、嬉しかった。
39才での初交は、不安に満ちたものだった。
幸い博のテクニックといたわりで、ほんの一瞬の痛みで済んだが、それは幸せな痛みだった。思う男を受け入れる痛み。それは一種マゾ的な悦びなのかもしれない。女の本能かも知れない。
好きでもない男に、痛い思いをしてまでもと、単純な動機で四十近くまで男を知らずに過ごして来たが、こうして博に破瓜され、痛みに耐えることの悦びを味わってみると、やはり処女でいて良かったと思う。
若し処女でなかったら、博も由美子を、単に数ある不倫相手の一人として、何時かは忘れてしまうだろう。
自分の腹の上で、無心によがり悶える博を、可愛いと思った。
そんなにも自分の身体が、博を狂喜させるとは思っても見なかった。博の悶えは、単なるテクニックとは思えなかった。
身も心も、むさぼるように由美子を求め、そして悦楽の極みに達した。
博が硬直し、体内に愛腋がほとばしり、子宮に満ちた。
由美子にとって、それは性感がどうの、オルガスムスがどうのといういうようなものを超越した、悦びだった。
2.
由美子の脳裏は、いつの間にか5日前のベッドに、フラッシュバックしていた。
博の歓喜が峠を越えて、股間の怒張が徐々に萎えていく。
痛くてもいい、もっと、もっと…、由美子は博の背に腕を廻し、足を絡めてすがり付いた。股間の異物感が薄れて行くのを、侘びしく思った。
灼熱の嵐が過ぎると、博は汗に滑る身体を外して、横に並んだ。
「由美子さん、君を愛してる。君がこんなに好きだったなんて、僕は思っていなかった。君の唇も、乳房も、この腕も、おへそも、そしてオマンコも、みんな好きだ」
博の卑猥な言葉を聞いて、由美子は頬を赤らめた。
(オマンコだなんて)
普段の真面目腐った博の顔を想像すると、おかしくなった。
(オマンコをした仲なんだから、まあいいか)
自分も頭の中で卑猥な言葉を繰り返してみると、中々ユーモラスで、懐かしい響きがある。
二人だけの秘めた会話が、博を一層身近なものに感じさせた。
由美子は博の腕を掴み、身体を摺り寄せた。
「博さん、わたし、博さん大好き」
博の横顔に頬を摺り寄せると、そっと耳元に囁いた。返事をしない博は、既に軽い鼾をたてて眠りに落ちていた。
シドニーからずっとドライブしてきて、由美子への心遣いと激しい愛撫で、疲れたのだろう。
(シーツが出血で汚れているわ。始末をしなくちゃ)
由美子は、脳の奥で睡魔と闘いながら起き上がろうとしたが、博の肌から離れるのが惜しかった。
ぐずぐずしているうちに、博の後を追うように意識が薄れていった。