(その2)-2
…あ、うん…あっ…あっ…
まるでAVを撮られているときのような微かな嗚咽が自然に洩れる。乳首が私の中の火照った
微熱を感じとったようにコリコリとそそり立ってくる。私は乳首をつまみ、息づく乳房を掌で
包み込むように揉みしだきながらも、もう片方の手をゆっくりと下腹部へと這わせる。
指爪を股間の腿の内側にたてる。腿肌に湧き上がる痒いような疼きがふわりと陰部の割れ目へ
と滲み入ると、腰が悩ましくくねり始める。
なぜかあのビデオの中の蝋燭責めの快感をからだがひとりでに欲しがっている。やがて抑えら
れない湿った欲情が私の指を下着の中に導いていく。
…あっ、あうっ…ううっ…
繁みの中の甘美な痺れのようなものが指に絡みつきながらも、私は肉の割れ目へと指をずり降
ろしていく。淫唇がすでにしっとりとした湿り気を含み、指の腹が淡くぬかるんでくる。中指
を秘裂のあわいにゆるやかにすべり込ませる。
指の腹を裂け目に押しあて、生ぬるくぬかるみ始めた粘膜を上下に擦りあげる。しだいに強く
擦りあげるほどに腰がわずかに浮き上がり、肉唇をいじる指が気だるい追憶をざわつかせる。
なぜか、もっともっと欲しかった…。からだの中からひたひたと込み上げるものは、どこか別
の私から生まれてきているような気がした。媚びたような甘さと湿っぽさを孕んだ欲情が全身
を包み込んでくると、私はあの頃の追憶に浸りこんでいった…。
六年前に撮った三本目のAVは、私にとっては初めてのSMものだった。二本のAVを撮った
あと、他のAV女性との共演で短いものをいくつか撮ったが店頭や通販で売られることはなか
った。SMもののAVの話があったのは、私があの頃つき合っていた男と別れた半年後だった。
六年前…
私が三十歳のときつきあっていた男…クノキ リョウスケ。当時、四十五歳の彼は妻子のある
男だった。
なぜそんな男と自分がつき合い始めたのかわからなかった。いや、それが恋とか愛とかいうも
のなのか今でもよくわからないことがある。バイト帰りの深夜のカクテルバーで偶然に隣同士
になり初めて出会ったとき、クノキは私が「風間 澪」であることにすぐに気がついた。
彼に自分のAVの話をされることがなぜか嫌ではなかった。AVの中の私は演技をしているだ
けだというのに、彼が私のことを語ると、彼が私のすべてを知っているような錯覚さえ覚えた
ような気がする。
三度目に会ったときにクノキにホテルに誘われた。そのときの私は、ただ急に襲ってくる肌寂
しさから、偶然に吹いてきた優しげな風に自分のからだを委ねたかっただけかもしれない。
ベッドでからだを寄せ合ったとき、彼の肌に触れることで私の中でかたくなに殻を作っていた
何かが緩やかに溶け始めたような気がしたのは、ただの私の錯覚だったのだろうか…。