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ひこうき雲
【SM 官能小説】

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(その2)-3

クノキは衣服を脱がせた私の手首を後ろ手にすると手錠を嵌めた…。

あなたって、こんな趣味があるのね。こんな趣味は嫌いなのか。ただのお遊びだよ。もしかし
たら、あなたって変態だったりして。変態ってどういうことなのか、オレにはよくわからない
な。オレが変態だったら、つき合わないってことかな。好きになった女を自分のものにしたい
…それだけの話だ。

私は手錠をされた時間だけ彼のものになる。彼の妻以上の女になる…そのための手錠。私は
そう思った。あなたの鞄の中には鞭とか蝋燭があるのかしら。さあ、どうかな…きみがお望み
ならそういうものを使うこともあるかもしれないな。


手錠をされたままベッドに押し倒された私は、彼にからだの隅々まで長い時間をかけて愛撫さ
れた。私はこれまで知ることのなかった自分の中の未知の澱みに奥深く浸っていったような気
がする。

その後もクノキとセックスをするときは、彼は必ず私に手錠を嵌めた。あのとき手首に感じた
手錠の金属の冷たさと含んだクノキのペニスの生あたたかさの記憶を、今でもふとたぐり寄せ
たくなる自分にもどかしさを感じる。

傷つくのは自分だということがわかっていても、私は自堕落的と言っていいほどクノキに酔い
しれ、彼を追い求めた。私はそういうことに慣れた女なのだと思った。

私は彼を求め、彼もまた私を必要としているように感じたのは私の独りよがりだったのかもし
れない。いつのまにか続けることに意味のない無為の時間だけがすぎていった。


そして、クノキとは二年で別れた…。

街のレストランで妻と小学生の娘を連れて食事をしている彼を偶然見かけた。そこには、私と
会う時とは別人のような彼の姿と、私が決して得ることができない時間があった。
彼が自分から遠い存在であることをいやが上にも感じないわけにはいかなかった。彼の幸せに
対する嫉妬というより自分に対する嫌悪感とつかみどころのない希薄な強がりを感じた。

そして、いつも私を襲ってきていた渇いた寂しさがふたたび私を包み込んだとき、私は彼と
別れる決心をしたのだった…。


クノキと別れたあと、心の中に何かがずっとつかえていた。彼の像を遠くに追いやろうとする
自分と彼をふたたび引き寄せようとする自分が交錯し、水母のように物憂げに揺らぎ続けてい
た。悲しみよりも混濁した切なさが私を空しく煩悶させた。そんな気持ちになったのは初めて
だった。自分が遠くへどんどん追いやられる息苦しさ…死を考えたこともあった。いや、死が
どういうものかを知ることもなく、死を想ったのだ。


クノキと別れて半年を過ぎた頃、悶々としていた私は、赤裸々な自分の姿をなぜか彼に見て欲
しいと思った。いや、彼はきっと私のビデオを見るはずだと夢遊病者のように毎日考え続けた。
そして、しばらく連絡がなかったイチムラに電話をかけたのだった。


六年前のあのときのことがふわりと湧いてくる…。



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