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最中の月はいつ出やる
【歴史物 官能小説】

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第三章-2

 その夜、先日登楼したものの名代の初音でお茶を濁された札差のご隠居、徳兵衛が月汐の閨(ねや)にいた。

「ふむ……。この前の振新もよかったが、やはり花魁は格が違う。初音には芍薬となる素養はあるが、月汐は花王、牡丹の風格を湛えておる。艶冶な表情、胡弓の音色のように艶のある声、みっしりとした肉置き(ししおき)、すべてが上品(じょうぼん)じゃ」

「あれさ、そんなに誉めあげられては、いたみ銀山でござりいす」

「ははは、恐縮するたまでもなかろうに」

「まあ。上げたり落としたり、せわしないことでござんすねえ」

月汐はそう言いながら徳兵衛の陰嚢をじわじわと揉んでいた。そして、中指が時折、ご隠居の蟻の門渡りを軽く押す。

「おお……。かような指遣いが振新の初音には、まだ出来ぬのじゃなあ」

「あの娘には、追々、手取り足取り教えてあげんすよ」

「初音は、どこまでいけそうなんじゃ? 花魁は無理として、座敷持(平素寝起きする自分の部屋と、客を迎える座敷を持つ女郎)くらいにはなれそうか?」

「さあ……。あの娘の精進次第でありんすが、がさつなところがありいすから、へたすると部屋持(自分の一部屋は持つが、そこに客を迎える遊女)が関の山かも……。でも、ご隠居、ずいぶん初音に興味があるようでござんすねえ」

「いや……。月汐花魁がどこぞのいい男に身請けされ、いなくなってしまったりしたら、次の女を捜さねばならなくなるからのう」

「おやおや、わっちに身請け話など来るわけありいせん。それどころか、借財がかさんで年季が延びるいっぽうでござりんすよう。徳兵衛の旦那、助けておくんなんし」

月汐は徳兵衛にすがりついてみせる。わざとらしい振る舞いだが、震いつきたいほどの別嬪、その身体の柔らかさ、温もりを感じて、相好を崩さぬ男などいやしない。四方山話はやめにして、徳兵衛は月汐の女体に溺れることにした。

 花魁と呼ばれる高級遊女独特の艶めかしい雰囲気が、隠居した男の一物に気を送る。白い指で優しく握られた男根は、強くしごかれたわけでもないのに、芯が通り始め、萎れた老体には不相応な張りを帯びる。

「おお。……これぞ回春じゃあ」

徳兵衛の顔がにやける。月汐の指が鈴口の先端を刺激すると、先走りの透明な玉が小さく宿り、白い指の腹がその玉を押しつぶすと、亀頭の先がぬめりを帯びた。

「さあ、挿れなんし」

月汐が仰臥し、膝を割って肉の牡丹を開帳する。若い男なら意馬心猿となり躍りかかるところだが、ご隠居は、よっこらせいと、おもむろに身体を重ねた。くたびれた身体で唯一壮健さを見せる男根が傾城の女陰に埋没する。

「おお……。温(ぬく)い開(ぼぼ)じゃあ……」

目を細めながら徳兵衛は腰をそろりそろりと動かす。月汐は陰肉の花弁を男根に纏わり付かせ、時折、微妙に力を入れて「絞め」を感じさせる。ご隠居の首に腕を回し、耳に赤い唇を近づけて熱い吐息を聞かせてやる。

「ぬしさまは鬼籍に入ってもよい年なのに、いつまでも腎すけ(性欲が強いこと)なんで呆れるでござりいす」

そう言って徳兵衛の心をくすぐると同時に、腰をせり出して子宮(こつぼ)のどんづまりで亀頭をくすぐってやる。そうされると老いた男は本人が気づかないうちにダラダラと精を漏らすこともあるのだが、そこは月汐、心得たもので、一旦腰を引き、女陰を弛緩させて精の決壊を未然に防ぐ。

「近頃、わっちぁ身体に肉が付いたでござんしょう?」

話しかけて、なお、男の熱を冷ましてやる。

「そうかのう? 前からこんなものじゃったが……」

徳兵衛は月汐の脇腹から胸のあたりをまさぐる。

「いや、待てよ。……乳だけは、もっと肉が付いたみたいじゃ。ほれ、たぷんたぷん」

「もう……。ふざけるのは、およしなんし」

乳房を揺らすご隠居の腕を軽くつねって笑い合う。そうして、ひと呼吸入れてから、また尻を浮かせて一物に刺激を加え始める。徳兵衛も陰茎の抜き差しを再開し、花魁との交情を楽しむ。

 そうして、老体には程よい頃合いだと月汐が判断すると、嬌声を強めに漏らし、両脚を突っ張って女陰に力を込める。ここで目出度く徳兵衛は鼻の穴を膨らませ、鈴口の先の穴もひくつかせて吐精する。壮年のように夥しい精液が子宮(こつぼ)の底を撃つことはなかったが、男の絞り汁がドクリと漏れたことを膣で確認した月汐は、優しく徳兵衛の背中に腕を回し、満足げに長く息を吐いてみせた。

 徳兵衛に二戦目を交える体力は残っていなかったので、月汐は客と自分の股間を綺麗にすると、三つ蒲団を降りて襖を開け、隣の座敷から菓子の紙袋と湯の入った土瓶を持ってきた。徳兵衛は下戸とまではいかぬが酒はあまりたしなまなかった。

「ぬしさま。白湯でよろしければお飲みくだしゃんせ。菓子もありいすよ」

湯吞み茶碗と御簾紙に乗せた巻煎餅を差し出した。この煎餅は花魁手製のものではなく、こしらえかたを元に戻した竹村伊勢の謹製だった。

「ほう。吉原名物、巻煎餅か。……ひとつ頂くかの」

徳兵衛は一本つまんだが、歯を当てて、やや渋い顔をした。

「お口に合ぬと?」

「いやいや。……この年になると歯が弱っての。この煎餅だと硬いのじゃ」

「はあ、さようで……。では、羽二重餅でも持ってこさせんしょう」

腰を浮かしかけた月汐を徳兵衛は制した。

「硬い煎餅でも、年寄りの食い方というものがあっての……」

御簾紙で巻煎餅を包むと、拳で何度か叩き、紙を開くと砕けた煎餅が現れた。それをつまみあげてご隠居が笑顔になる。

「前歯はだめでも、奥歯はまだ丈夫だからの」

煎餅のかけらを口に放り込んでボリボリ音をたてた。それを眺めながら月汐は、もっと柔らかい煎餅もあっていいのでは、と、ぼんやり思っていた。


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