紅館番外編〜始まり〜-6
『誘惑するのはやめてくれ。
君が改宗しなければそんなこと意味ない。』
『あら………では、改宗していれば………紅様は私の誘惑に落ちてましたの………?』
『………そうとは言ってない。』
『………ウフフ………』
なんか引き込まれている気がする。 彼女………本当に恋愛禁止の司祭なのだろうか?
どうも馴れている気がするのだけど………
『で、一応聞くけど。』
『しませんわ………』
無駄な問答か。
『明日以降、拷問もきつくなるよ。
今までは痛みこそあれど、傷は余り残らない。
改宗した後のことを考えて………ね。
だけど、明日からは体が破壊されるよ。 指砕き、足削ぎ、乳房裂き。
君は徐々に………醜い肉塊となる。』
こうしてこれからする予定の拷問を話すのは意外と効果的なのだ。 想像して、苦しませる。
(悪趣味だけど。)
実際に先程のような拷問をするのはまだ先の話で、ただ怖がらせるだけなのだ。
『………怖いですわね。』
『ならば改宗しなよ。 私だってそんな拷問見たくないし。』
しかし彼女は首を横に振る。
『いいえ………紅様………
私が恐れるのは………苦痛から逃れたいがために………改宗をしてしまわないか………それが怖いのです………』
『何故だ!? 何故君達は命より宗教を取る?
命あっての宗教だろう!?
一旦偽りの改宗をして、また密かに信じればいいじゃないか!?』
『エルフとはいえ………限られた命………いつか死がくるなら………要は死に方です………
私は………老いて死ぬより………自身の信じるものを貫いて………死にたい………』
彼女の決意は固かった。
有限の命、確かにいつか来る死なら、自身の納得行く死に方をしたいと言うのもわかる。
だが………
『私には関係の無い話だね。』
『………何故?』
『私には、寿命が無い。 不老の私には、基本的に死が無い。 誰かに殺されない限り。』
誰かに殺されることも………無い。
私は強くなりすぎた。 私の体はすでに人知を越えてしまっている。
『………有限の私には………無限が羨ましいですわ………』
『無限の私には、有限が羨ましい。』
じっとお互いの目を見つめあう。
『………長い時を………共に歩める人を…………求めているのです………ね?』
『………あぁ、エルフは長生きと聞くけど。』
『私達エルフも………千年が最大………』
千年………長いようで、私には短い。
『そう………じゃあ、また明日。』
『お待ちを………紅様……これを………』
シャルナが私に綺麗なネックレスを投げ渡した。
それには金で出来た綺麗な星の飾りがついていて、暗いこの場所でも僅かに輝いていた。
『これは?』
『私の家に伝わる………幸運のお守りですわ……』
エルフの家に伝わるくらいなのだから、たぶん名のあるネックレスなのだろう。 そんなネックレスを私に譲ると言われても、受け取りづらい。
『家に伝わる宝なら………』
『私が死んで………誰か知らない人の手に渡るのなら………貴方に………
貴方の孤独が………癒されますように………』
答えを先読みされ、そう言って手を合わせるシャルナはどこか母親のような優しさが感じられた。