紅館番外編〜始まり〜-21
『………あなた………私………生まれ変わります………』
恋人の吐いた、優しい嘘。
私は首を振り、シャルナの目を見つめる。
『………………』
『………冗談って言わないんだね………』
シャルナの目は真っ直ぐに私を見ている。
透き通る、その目で。
『………100年………お待ちください………』
『シャルナ………?』
彼女はゆっくりとベットに体を寝かせる。
『………キスして………下さい………』
シャルナの手が私の頬に添えられて、そのまま私達は唇を重ねた。
ただ、ただ唇を重ねているたげなのに、幸福感と………悲しみが溢れてきた。
一筋、涙が頬を伝い、落ちた。
『………行かないで………シャルナ………私を独りにしないで………』
抑えきれなくなった言葉を口にする。 シャルナには、思い残さずにいって欲しかったのに………
『このキスですわ………あなた、このキスを忘れないで………』
涙に濡れる頬をシャルナの手が優しく撫でる。
『………100年後に………必ず私はまたあなたに会います………そうしたら………キスをして………キスで………またあなたに恋し………ます………わ………』
頬に添えられた手が落ちて、私はその手を握り締めた。
『………100年後………だね………』
閉じられたシャルナの瞳、その両手を胸で組ませて私は立ち上がる。
もう涙は………流さない。
『さよならは言わないよ。
………いってらっしゃい、シャルナ。 また会おうね………』
静かにドアが開き、閉まる。
ここに、一つの物語が中断した。
二人の時がまた動き出すのは、100年後のこと………
とあるエルフの森で………
紫がかった黒髪のエルフが夫と話していた。
『ロイヤル………私、また子供が欲しい………』
『ミルク? どうしたのですか?』
『前に出ていった娘が、懐かしくなってしまって………私は子供が出来にくいから、10年先か100年先かわからないけど、作りましょう。』
『………えぇ、良いですよ。
出ていったあの子に負けない、素晴らしい子が出来るますよ。
君と同じ髪色の子が………』
『私、女の子なら、もう名前を決めてあるの………』
名前は………シャナ………
紅館番外編〜始まり〜 完