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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館番外編〜始まり〜-13

またしても無視されたキシンはへこんでいるようだ。
『………俺も書いたけどさ。
さすがにナインツも六英雄の過半数超えの願いなら無視できないだろう。』
なるほど、と頷く。
それならもうシャルナは大丈夫だろう。
最悪、この屋敷を捨てて二人で逃げることまで考えていた。
『そういえば………お前宰相クビになったんだって?』
『ん、あぁ、全部ね。 暮らすのに困らないくらいの貯えならあるから良いけど………』
お金は使わなければ貯まるもの。 この半年間、仕事ばかりでまったく使わなかったので大分貯まっている。
『貴方らしいのね。 じゃあ、とりあえず私は部屋に行ってるわ。
暫く泊めてね。』
アルクウェルが席を立つとキシンも立ち上がった。
『そういや、アルクウェルの村は大丈夫なのか?』
『キシンと(略)』
二人のやりとりを聞いていて溜め息をつく。
結局、私がキシンの質問を代弁することとなった。
『アルクウェル………村は大丈夫なのかい?』
『えぇ、アルシアに任せてあるから。』
アルシアとは彼女の娘だ。
と言っても、彼女は結婚していない。 村の長であるアルクウェルは後継ぎが欲しくて、自分の血と肉の欠片から造った娘。 いわばアルクウェルのクローンだ。
だが、顔は全くの別人。
顔が一緒だと気持悪いというアルクウェルの考えで顔を変えてある。
(アルシア………アルクウェルと違って優しいからなぁ………クローンなのに。)
と思ったのはキシンだ。
『そう、じゃあ、何か用があったら言ってくれ。』
『えぇ、じゃ、またね。』
アルクウェルが食堂を出ていくとキシンにそっと囁いた。
『頑張れ。』
『あぁ………諦めないぞ………
そうだ、アルシアだけどな。 子供が産まれたらしいよ。
女の子だってさ。』
『へぇ! そう………今度会いに行こうかな?』
アルシアの子供ならきっと優しい子なのだろう。
『アルシアが喜ぶだろうな♪
じゃあ、俺も部屋に戻るよ。』
キシンも食堂を出ていったため、私は一人になった。
そして私も食堂を出て、二階に行く。 もちろん、シャルナに会うために。



暗い部屋にロウソクが一本だけ灯りとしてともっている。
部屋には、ナインツが一人、椅子に座り机の上にある紙を見つめていた。
その顔はとても疲れた様子で、以前のような若々しさは感じられない。
紙には昔の仲間の署名。 エルフを助けたいという誓願状だった。
『キシンも………アルクウェルも………ヨウヤチネまでも………』
あのエルフの味方か………
奴は魔女、奴は法の敵、奴は魔女、奴は邪教徒、奴はウェザをたぶらかした、奴は魔女、魔女、魔女、魔女!
『………何故………だ!』
奴は私から兄を奪った。
『何故………皆、奴の味方をする!』
奴は………死すべし。
『なのに………なぜだぁぁぁぁぁぁ!!!』
悲痛な叫びが木霊する…………だが、それは無情な雨音に掻き消され、再び静寂に戻った。
二階に上がると、アルクウェルが立っていた。
『話忘れてたわ。』
そういい、私に近付いてくるアルクウェルの表情は先程とは違い、暗い。
『シャルナさんね………傷は治ったけど、予想以上に深くダメージを負っていたの。』
体がビクッとした。 まさかシャルナの身にまだ何かあるのだろうか?


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