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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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奸計1-4

「探偵であるわたくしが、なぜあなたにこのような話をするかと申しますと……」と言って、微妙な間を置く。どこまでも低姿勢で。恵の目が催促をしていた。
「あの、ここでは何ですから、あ、そうだ、あそこの喫茶店はいかがでしょう」
 恵がそこに視線を向ける。明るい雰囲気の喫茶店でそこそこ客がいる。恵にとって安全な場所を選ぶ必要がある。立ち話では誰かに見つかる可能性もあるので初めから誘う予定だった。
「もし、急がれるのでしたら、またの機会でも結構です」と言うと、恵はすぐに承諾した。母親が父親の上司と不倫をした、ということは知っているが、詳細は知らないだろう。両親が事細かに話すとは思えない。もしかしたらこの男が詳しく話してくれるのではないか、と思わせるよう誘導できたはずだ。喫茶店に入ると、できるだけ人のいない席を選んだ。沼田は入り口から背を向け、向かいに恵を座らせ、飲み物を頼んだ。
「実はわたくしは探偵の仕事をやめました」
 話の入り方はこれでいい。若干だが恵は興味を引いたようだ。
「もちろんあなたには何の関係もございません。わたくしの個人的な理由です」
 仕事柄、今まで何百、いや、千単位の人間を相手に交渉を重ねてきた。身の竦むような修羅場もあったが、培われた交渉力で何とか乗り越えてきた。その営業力は伊達ではない、と自分に言い聞かせる。
「探偵などと申しましても、毎日、浮気調査をしているようなものでございます」
 恵は視線をはずして、唇をかんだ。
「しかし我々は、それで給金を得て生活をしております。そのおかげで家に住むことができ、子供を高校、大学へと通わせることができます。ちょっとした旅行に連れて行ったり、妻や子供に気に入った洋服を買ってやることもできます」
 恵はうつむいた。うなずいたのだろうか。
「仕事ですので、結果をご依頼主さまにご報告いたします。その後、ひとつのご家族、ご家庭が崩壊いたします。できるだけ淡々と仕事をこなしてまいりましたが、わたくしは限界に達しました」
 視線を落として聞いていた恵が顔を上げた。
「ずっと悲愴感に苛まれていました。仕事は辞めましたが、わたくしには最後にすることがございます。わたくしが調査に携わったことにより、ご不幸になった方々にお詫び申し上げることでございます」
 恵は少し眉をひそめた。沼田は目をパチクリさせた。涙よ出ろ。出なかったので赤くなるまで目をこすった。
「とはいえ、ご家族の一人ひとりの方にお会いするには多すぎまして、とても無理ですので一番被害を被った方にお会いすることにいたしました。そのご家族の中で一番弱い立場にあるお子様たちに。勝手ながらお子様がおられる場合のみです。お子様が小さい場合は、引き取られた親御さまにわずかながらのお金を……」
 よし、少し涙が出た。
「そういったわけで、ご迷惑を承知で一人ひとりお会いして、お詫びもうしあげておるしだいです」
 沼田は小さく頭をさげた。
「そうだったのですか……」
 声もかわいい。奈津子の声に似ている気もする。
「大変申し遅れました、わたくしはこういうものです」
 恵の言葉を遮り、名刺を手渡した。
「飯沼と申します。お恥ずかしいのですが、訳あってケータイの番号しか入れてございません」
 パソコンに疎い沼田は自分では作れないので、業者に注文して名刺をつくった。
「世の中にはこのような仕事はごまんとございます。わたくしも携わった当初は、人の秘密を探ることに抵抗はありませんでした。興味さえありました。ある日、偶然その当事者を、浮気をした本人を見かけました。彼の不倫を暴いたのはわたくしです。彼を見かけた場所は川べりでした。顔中に髭を生やし髪は伸び放題。ずっと彼を監視していたので、様相が変わってもすぐにわかりました。ズタ袋を担ぎボロの服をまとっていました。驚いたわたくしは彼の家族を確認せずにはいられませんでした。別れた二人の間には幼稚園くらいの小さな男の子がいました。その子は奥様に引き取られました。奥様は再婚していました。奥様と再婚相手の間に子がいました。引き取った子は児童養護施設に預けられていました。理由はわかりません。離婚した夫との間にできた子が邪魔になったのでしょうか……わたくしのせいではないと自分に言い聞かせ、生活のため家族のため、そのときはまだやめることはできませんでした」
 恵は少し涙ぐんでいる。


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