初夜-8
朝、海斗はベッドで1人で目を覚ました。目を開けたまま天井を見つめる。ボーッとしながら記憶を辿る。あまりにも非現実的な一日だった。瀬奈との出会いは夢だったのであろうか。寝起きの海斗にはそれが残念な事なのか胸を撫で下ろす事なのか初めは判断つかなかった。
次第に意識がはっきりとしてくる。海で美女を釣り上げ家に招き入れ、そしてセックスしたのである。そんな誰も信じないような出来事が果たして本当に自分に起こったのか考える。今までだって何度も好きな芸能人とヤッた夢を見て、そして目を覚まし溜息をついた事など山ほどある。海斗は無意識に溜息をつく。
「夢かぁ…。ハァァ…」
上半身を起こし俯く海斗。そこへ何やら1階から物音がする事に気付いた。もしや夢ではなく早起きした瀬奈が朝飯を作っているのではないかと甘い夢を見る。
「夢じゃないのか!?」
完全に目が覚めた。海斗はすぐさま下半身を確認する。
「これは…!」
完全にヤッた痕跡がある。そして枕に長い髪の毛を見つける。
「夢じゃなかったのか!?」
この瞬間、夢であったなら残念に思った自分に気付いた。海斗は飛び起きて階段を降りる。
キッチンに行くと昨日買った部屋着を着て台所に立つ瀬奈の姿を見つけた。瀬奈が振り返る。
「海斗、おはよう!」
そんな瀬奈に海斗は完全にハートを貫かれた。面倒だ、関わらなきゃ良かったと思っていた昨日の気持ちは台風とともにどこかに飛んで行ってしまったようだ。
「お、おはよう…」
思わず声が上ずる。
「あはっ、朝起きたら私が逃げちゃったって思った??」
「い、いや…昨日の事は夢だったんじゃないかって…。」
「フフフ!夢じゃないよ。」
瀬奈は海斗に歩み寄り頬にキスをした。
「こ、この感触…、間違いなく夢じゃねぇ!!」
興奮気味の海斗に苦笑いする。
「勝手にキッチン使わせて貰っちゃった。」
「あ、ああ、いいよ!何作ってんの??」
「やっぱ、朝は鮭と納豆でしょ!」
「おっ!分かってるねぇ!」
偶然にも大抵いつも海斗はこの組み合わせで朝食を済ませる。
「もう出来るから、海斗もいつまでもその立派な伊勢海老をしまって着替えてきてね?」
「ん?あ…」
慌てていた為に裸のまま降りて来てしまった。海斗は仕事に行く姿に着替えて降りてくる。
「へぇ、こう見るとちゃんとした社会人だね!似合ってるよ?カッコいい。」
少し照れたのは本当にそう思ったからだ。海斗は生まれて初めて家族以外の女性と朝食をとった。
「じゃあ行ってきます!」
「うん。行ってらっしゃい!私はいなくならないから慌てないで帰ってきてね?」
「あ、ああ。分かったよ。」
玄関で手を振り合い出かけた海斗は鼻歌交じりで車を運転した。
「忘れてたわ、この感覚…」
瀬奈はあまりの幸せ感に浸り暫く動けなかった。この幸せにずっとこのまま包まれていたい…、瀬奈は幸せと同時に切なさを感じていたのであった。