海斗と幸代-1
「おはようこざいます。」
海斗はテンション低めにそう言うとそそくさと自分のデスクについた。そんな海斗を見てニヤニヤしながら部長の安田が歩み寄る。
「あれ〜?今日は元気ないなぁ?いつもなら釣った魚を自慢気に掲げて入ってくるのになぁ?」
唇を噛みしめる海斗。
(う、ウゼェ…、超ウゼェ!!)
腸が煮えくりかえる気分だった。ついでに幸代まで寄って来た。
「大きな台風、大きな餌とくれば当然釣れたのも大きな魚ですよねぇ??」
幸代のニヤニヤ顔は更にムカつく。ギリッと音が聞こえそうなぐらいに歯を食い縛る。
「で、何が釣れたんだ?あの台風の中??」
「海斗さんレベルになるとあんな台風なんか屁でもないですもんね!鯛かな〜?ブリかな〜?クジラかなぁ??」
「オイオイ、鯨はないだろ?シーシェパードに目をつけられちゃうからな!」
「ですよね〜!」
ナイスなコンビプレーで海斗を苛つかせる。
「…カメ」
海斗が小さな声で呟く。
「何だって?何が釣れたんだって〜?」
「何釣ったんですか〜??まさかみんなの反対を押しきって釣りに行ったんですから何も釣れなかっただなんて事はありませんよね〜?」
完全に何も釣れていないと知っていてからかっている2人に海斗は言う。
「ワカメ…」
一瞬安田と幸代が目を合わせニヤッと笑う。
「ワカメって釣れるんだ!」
「ワカメ釣るのに餌って必要なんですね〜。」
散々馬鹿にする2人に海斗の頭の中で何かが切れた。
「そーだ!ワカメをたくさん釣ったんだよ!超大量だぜ!ワカメ大量大漁だ!!1人じゃ食い切んねーわ!だから分けてやるよ!うらっ!」
海斗は袋からワカメを無造作に握りしめ、事もあろうか安田の頭に乗っけた。
「う、うわっ!!」
ヌメヌメした感触に驚く安田。
「最近抜け毛が多いからそれ食って増やさして下さいよ!ほら幸代!!」
続いて幸代の顔にワカメをグイグイ押しつけた。
「ギャー!!」
信じられない海斗の暴走に悲鳴を上げた。
「そろそろお肌の曲がり角たから海草エキス注入してアンチエイジングでもしろや!!…うらっ!!」
海斗は事務所にいる社員みんなに次々とワカメを持ち襲いかかる。悲鳴が響く事務所。事務所はワカメ地獄へと化したのであった。