発覚2-2
「ずっと、と言うと、いつから知っているのかな」
「え……」
一瞬迷ったが、「あ……それは、結構前です。もう何ヶ月も」と答えた。田倉は身じろぎもせずに石橋を見つめている。視線が鋭い。
「偶然、部長と進藤さんがホテルから出てくるところを見ました。同フロアで人が異動するので、その送別会の帰りに……」
田倉は「うん、ずいぶん前だね」と瞬きもせずに言う。
「確か部長は欠席で……」
「そうだね」
「あ、そうか、進藤さんと……」と言って慌てて口を押さえる。
「どうして今まで黙っていたのかな」
彫りの深い田倉の顔は、やはり格好いいと思った。
「言うほどのことではないと思いました、から」
打算が頭をよぎる。ビデオを撮って存分に楽しんだことは知られたくない。心臓がばくばくする。
「そう……」
田倉は何かを考えるような顔つきになる。石橋は続けた。
「あの、これから進藤さんとどうなるのですか。佐伯とは……」
突然、田倉が立ち上がったので息をのんだ。
「他に知っている人は?」
強い口調だったので、思わず「沼田課長」と答えてしまった。田倉は口を一文字して「わかった」と言って会議室を出て行った。石橋はしばらくボーッとドアを見つめていた。足音が消えると両手をあげ、「あー疲れた」と声をだし、ばたんとテーブルに突っ伏した。
あの日、奈津子が『また、お会いしたいですね』と言っていたが、未だ会っていない。ケータイの番号を教えたが連絡すらない。まあ、そりゃそうだろう。でも顔を覚えていてくれたのは本当にうれしかった。
それはそうと沼田の名を思わず口走ってしまった。言うつもりはなかったのだけれど田倉に気圧されたのだ。そのときの顔が一番怖かった。田倉は口止めは要求しなかった。潔いといえば潔い。その点は男だと思った。でも佐伯をだまして出張させたことは良くない。調べてみてわかったことだが、他の人間が行く予定だったのを田倉が佐伯に変えたのだ。内容も確認したが佐伯が行くほどの問題でもない。田倉は地位を利用して佐伯を貶めた。だから石橋は田倉に伝えた。
もろもろに関して石橋の行動も褒められるものではない。尾行してビデオに撮影し、自慰の糧にしていたのだから。しかも沼田にダビングまでしてしまった。
「俺は盗撮という犯罪行為を犯している」
その思いは心の隅にずっとある。この件が公になり沼田がビデオのことを話したら、没収されてしまうのだろうか。と言うより、警察沙汰になるのだろうか。でも石橋にはあまり恐怖はなかった。若干の期待感すらあった。なぜなら全てが発覚したならば、奈津子と同じ輪の中に入ることができるからだ。
ともかく撮影を知っている沼田か石橋が自ら告白しなければ警察沙汰にはならない。従ってそれはないように思われた。そのこともあり、わりとお気楽な気分ではあるのだが。
これから田倉はどうするのだろう。何も行動に起こさなければ、それはそれでいい。このまま奈津子と付き合い続けるなら、それでもいいと思う。奈津子が佐伯と別れるようなことになってもいい。佐伯はかわいそうだと思うが、奈津子さえ不幸にならなければいい。石橋はぎごちなく書類をそろえ、のろのろと立ち上がった。