逃亡-26
3
緋村はコンビニの前に車を停車させた。
「ここらでちょっと買い出しに行く必要があるなぁ。」
緋村が釈放になってから、ほぼ丸一日が経っていた。
「そこのコンビニに行こうじゃないか。」
「えっ、まさか、この格好で…」
思わず両腕で裸の胸を抱き、両脚を閉じて瑞紀が言った。彼女は昨日から全裸のままである。
「もちろんだよ、さあ。」
「お客さんもいるわ…」
瑞紀の声が震えている。お昼前とあって、コンビニにはかなりのお客が入っている。ざっと数えただけでも十人以上はいるようだ。
「ストリップをして、身体の隅々までテレビ中継したんだ。しかもアナルセックスでイクところまで全国に放送されたんだぞ。何を今さら恥ずかしがることがある。」
緋村の残酷な言い方に、瑞紀はうつむいて下唇を噛んだ。
緋村が助手席のドアを開けて、言った。
「それに、原発の爆破装置はまだ撤去していないのだよ。」
緋村が瑞紀の腕を掴んでドアから押し出した。ひんやりとした風が吹いて、瑞紀の肌を撫でていく。
「いらっしゃいませ…」
国道沿いのコンビニエンスストアでフランチャイズ店長をやっている桜田孝行は、チャイムの音で入り口の方を振り向き、そう言いかけて、思わず言葉を飲み込んだ。とびっきりの美人が何も身につけない全裸で店に入ってきたからだ。
夢かと思って目を擦ってみたが、間違いない。
入り口の買い物かごを手にした彼女は、露わになった身体を手で隠そうともしない。真っ白な胸の膨らみも、セクシーな曲線を描くヒップも、黒い絨毛に包まれた下腹部も露わにしたまま、店内で買い物を始めた。
横を見ると、アルバイト雇っている大学生の今井が、バーコード読みとり機を手に持ったまま、ポカンと口を開けて美女の姿を見つめていた。彼の前に立っている中年のサラリーマン風の客も同じように呆けた顔で、生まれたままの姿で店に入ってきた美女を眺めている。
美女は、手にしたメモを見ながら、乳房も股間の絨毛も晒したままで店内を回り、食料品や日用品を買い込んでいる。低い棚にある物を取るために腰を曲げ、お尻を突き出すような姿勢をとると、ピンクに割れた肉襞までがチラリと見えた。
今や、店にいる全員が動きを止めて全裸の美女を見つめていた。彼女は自分の身体に視線が集まっているのを感じて、胸や股間を手で隠そうとするが、すぐに泣き出しそうな表情を浮かべて手を離す。おろおろした様子で、耳まで真っ赤になり、目も潤んでいるところを見ると、頭がおかしいわけでも、好きで裸でいるわけではなく、裸を見られることを恥ずかしがっているのはあきらかであった。
(そうだ、あの早瀬瑞紀とか言う婦人警官だ!)
最初の衝撃が去ると、桜田はすぐに美女の素性に思い当たった。昨日は店を今井に任せてテレビにかじりついていた桜田は、高坂サービスエリアでの恥辱の中継をずっと見ていた。しかも、途中からはビデオに録画し、夜中には妻に隠れて再生し、マスターベーションまでしていたのだった。
その時、再び店の自動ドアが開いて、背の高い男が入ってきた。「怜悧」という表現がピッタリの男だ。
(やっぱり、そうだ!)
桜田は、二人が瑞紀と緋村であることに確信を持った。
店内での買い物を終えたらしい瑞紀が桜田の目の前に立った。
近くで見ると、胸の膨らみは十分なボリュームを持っているが、桜色の乳首の初々しさと相俟って、少女の乳房のような清純さを感じさせる。大理石のように白くまばゆい下腹部を黒々とした艶やかな茂みが彩っている。
華奢でありながら柔らかな丸みを持ち、清楚でありながらセクシー、思わず抱きしめたくなる身体だ。そして、耳まで真っ赤になって、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた顔は可憐で、美女というよりは、美少女と呼んだ方がふさわしいように思えた。
(恥ずかしい、お願いだからそんなに見ないで!)
瑞紀の目がそう訴えかけていた。長いまつげには涙がにじんでいる。しかし、桜田の目はどうしても美しい隆起を見せる乳房と黒い繊毛の生えている股間に集中してしまう。