☆-3
数時間して、帰ってきた山崎を受付でとっ捕まえた。
「スミマセン。野口さん、先に行っててください」
「おぅ。10分だぞ」
そんなやり取りをした山崎を受付の奥の、誰もみえないような影に連れて行った。
「ね!さっきメールで橋本さんをデートに誘った!」
「は?」
「だから、デートに」
「え・・・」
「いいよって。ビックリしたぁ。まさか1回の誘いでOKしてくれるとは思わなかった」
「・・・・良くOKしてくれたな」
「うん!昨日さ、紙に書いて説明してくれるのに
橋本さん、手帳出したじゃん?
その時にエジプト展のチラシが挟まっていたから。
もし興味があるなら一緒に行きませんか?って」
「・・・・そ」
「うん。良かった」
「じゃ、おれ、部に帰っていい?」
ものすごく冷めた口調で言われた。
「えっ・・・あっ」
スーツの端をちょこんとつまんで引き止める私の指先を見つめて
山崎は感情のない声で
「なに?」
と言い放つ。
「あ・・・っと。えっと。初デートの作戦!
そう!作戦。一緒に練ってほしいな」
「は?」
「だから。デートの計画考えるの初めて・・・だから」
「お前って、残酷な女な」
「え・・・」
「いいよ。一緒に考えてやるよ。
お前、俺んチにいつも持ってる小さいバッグ忘れてない?」
「あ!そうそう!」
「今日、取りに来いよ。その時、ピザでも取って考えようぜ」
「う・・・うん」
山崎に表情がないのは相変わらずだ。
「ほら。鍵。俺8時には帰れるから。お前は定時だろ?」
「うん・・・」
「じゃ・・・。10分過ぎたし。部に戻るわ」
そういって山崎はエレベーターに消えた。
いつもは明るい山崎の冷たい表情が忘れられない。