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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-3

 再度答案の全体を眺めながら杏奈が言ったので、優也はホッと息を吐いた。優也にとって課題の数学は最重要、最優先の努力を要する対象であり、杏奈はいつもその出来栄えを他の教科より丹念に確認をする。そこまでしてくれる杏奈に対して、その時間を使って美貌に見とれている、というのも申し訳ない気がして、『家庭教師が答案を確認している間、評価をドキドキしながら待っている教え子』という体を敢えて見せているのだ。
「点数だけ見るとイマイチだけど、偏差値は悪くないから全体的に難しかったっぽいね。でもま、皆が正解したとこは正解したし、皆が間違えたとこは間違えてる、ってことは、標準的にはできました、ってことでしょ」
「合格?」
「まあ、合格としてあげる。……ん? 私に合格もらってもなんもなんないよ?」
「いいんだよ。……先生、僕が頑張ったら喜んでくれるでしょ?」
 おうっ、と杏奈は大袈裟に胸を抑えて、椅子の上で仰け反った。「胸キュンすること言ってくれるわ〜」
 表情がコロコロと変わる。こういった面に優也は深い魅力を感じるのだった。杏奈を喜ばせるために勉強する。そうすれば魅力的な杏奈が見れるのだから、言った言葉はあながち冗談ではなかった。
「都内で上位二十パーセントにギリギリ入ったね。ま、国語の点の貢献がスゴいからね」
「でも、頭のいい人がみんな受けてるわけじゃないし」
「謙遜しなくていいじゃん。頑張ったんでしょー? 私のために」
 淡色のグラデーションでネイルされた指の中で赤ペンをクルクル回し、杏奈は答案用紙を持ったまま脚を組んだ。オフホワイトのスカートから膝頭が覗く。
「ほら、そー思って改めて見ると……」数学の答案用紙を赤ペンでトントン叩いて、「問四。すさまじく補助線引いては消した跡が残ってるし、頑張った感がハンパなくて、センセイ萌えちゃう」
「そんなに引いたり消したりした?」
「うん、ほら」
 優也の方に傾けられた答案を覗きこむように杏奈に身を寄せると、甘いフレグランスが鼻先を擽ってきた。
「なんか、カッコ悪いね。結局間違えてるし」
 すると杏奈は赤ペンを持ったまま、頭を優しく撫でてくる。
「カッコ悪くないよ。頑張ったんでしょ?」
「……先生のために?」
「そ。私のために」
「この点でK大行けるかな?」
 髪を耳に掛け直してから、筆跡に汚れる問四の図形に独自に花丸を書き込んでいた杏奈は、
「……ん? K大来たいの?」
 不意に答案からもう一度優也の方に顔を向けた。優也は答案ではなく杏奈を見ていた。至近距離で目が合うと、優也がスッと顔を前に出してグロスの照る唇に一瞬触れた。顔を離したあともジッと杏奈の瞳に魅入っていた。
「こら、勝手に何してんの?」
 少し怒った顔に変わる。
「だって先生、別によけなかったじゃん」
 優也はもう一度顔を近づけた。近づいてくるにつれて怒り顔を解いた杏奈は、自らも少し顎を突き出して優也の唇を迎えた。二人の唇の音が部屋の中に鳴り、今度は優也が口を少し開けて舌を伸ばして、杏奈の形の良い唇をなぞると、誘導されるように杏奈もまた唇を緩めて舌を差し出した。お互いに尖らせた舌先で突つき合い、慎ましやかに絡めあう。
「今はまだ、勉強始まってないよね?」
「ん……、でも優くん、ちょっと待って。スイッチ早すぎて……」
 舌先を離し、口に溜まった唾液をコクンと飲み干した杏奈が照れた笑みを浮かべて小声で窘める。だが優也は杏奈の首の後ろに手を回し、手触りの良い髪を撫でて再び顔を自分へ向けさせて、
「頑張ったご褒美ほしい。国語、満点だよ?」
 諌めの言葉とは裏腹に差し出されている舌を優しくはむと、
「満点はわかったから。っていうか、優くんもともと得意でしょ、国語」
 杏奈が少し震えるのが髪から伝わってきた。
「でも、満点は全国に一人だし。……それはスゴいでしょ?」
「うん、なにげにスゴい。こんなことしてんのにね」
 同じようにして、と言わんばかりに、差し出された舌が杏奈の唇をなぞった。んっ、と小声を漏らし、杏奈は優也にしてもらったのと同じように舌先を唇で挟み、口内に少し入ってくる先端を中で待っていた舌で撫ぜる。
「数学だって、先生が絶対気をつけろ、って言ってたとこは間違えなかったよ」
「当たり前、だよ。そのために特訓してあげたでしょ?」
 会話を続けながらも、言葉を発していないときは唇と舌を合わせずにはいられない。――というより、キスの合間に会話をしている、杏奈から薫る芳醇な香りに胸をジーンと締め付けられながら、優也は膝にそっと手を置くと、組んでいた脚を崩させて自分の方へ引いた。脚を持たれて開かれそうになると、さすがに杏奈は内ももに力を入れて抗おうとしたが、髪を梳く指が耳朶までなぞってくると、焦燥に肩が跳ね、容易く片脚を優也の脚の上に乗せてしまった。


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