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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-2



 杏奈がドアを開けると、優也は勉強机で読んでいた本を閉じた。分厚い本だからぼんっという音がした。
「こんばんは。……まーた、そんなムツカシそうなの読んで」
 トートバッグを肩から外しながら、優也の座っているものと同じタイプの椅子に腰掛ける。週二回の家庭教師だが、杏奈が座り疲れしないように、しっかりとした椅子が一脚用意されていた。
「で? 今は何読んでんの?」
 杏奈は隣に座って、ふう、と一拍子息つき、バッグからペンケースを取り出しつつ尋ねた。
「これ。いま十二巻」
 優也は背表紙を杏奈に見せた。『ドストエフスキィ全集』。
「……ん〜……、……んと、ドイツ?」
「ロシア文学だよ」
 杏奈は握りこぶしを揺すって悔しがり、「おっしぃ〜。ドスなんとかさんって、有名なの?」
「べつに惜しくないよ。ていうか、先生、K大生がドストエフスキィ知らないってマズくない?」
「マズくないよ。別に杏奈センセイはドストエフなんとかさんなんて知らなくても、じゅーぶん、やっていけてますけど?」
「スキィは普通に言えたでしょ」優也はふきだして、「いや、一般常識としてだよ」
「うわー、ガキンチョに常識云々言われちゃったよ。イラっとくるー」
 言葉とは裏腹に、杏奈は赤ペンを持った手で机に頬杖をつき、燦めく笑顔を向けてきた。
(なんでこんなに可愛く見えるんだろう……)
 見た目は大人な女の人なのにな、と優也が内心見惚れていると、杏奈はその表情のまま、
「――はい、というわけで。統一模試の結果、返ってきたんでしょ? 見せて」
 少し前に受けた、大手学習塾が主催した模擬試験の結果を要求する。遠隔地や身体的な事情で会場受験できない生徒のために自宅受験も用意されている模試を杏奈が見つけてきて、優也に薦めたのだった。しかも受験する優也のために、当日はこの家で試験官までしてくれた。
「何で知ってるの?」
「玄関でお婆ちゃんが教えてくれたよ」
 余計なことを喋るなぁ、と優也は口を尖らせる。
「はい、早く、見せなさい? もったいぶったって点数変わんないんだから」
 と杏奈は頬杖を付いたまま、頂戴の片手をヒラヒラと差し出した。優也は送付されてきた封筒を机の引き出しから取り出して手渡す。
「……」
 じゃれていた杏奈の表情が真顔になった。点数はもちろん、採点評や順位、統計情報などが細かく記載された成績表を読んでいる。隣から見ていると、大きな瞳がときどき瞬きで長い睫毛に仰がれ、赤ペンを顎に当てて桃色の唇が結ばれたり、眉が上下したりしている。今さっきまで可愛らしい感じだったのに、家庭教師の本分を務める表情は一転して理知的なものになった。優也が吸い寄せられるように横顔に見とれていると、やがて杏奈がチラリ、チラリ、と睨んだ目線を送ってくる。
「……え、何?」
 怒ってる? 何でだろう。優也が不安げに問うと、杏奈はふん、と鼻から軽く息をつき、
「こういう模試で国語で満点取るヤツ、初めて見た。記述問題なんかもあんのに。偏差値七十八って何よ。しかも全国一位、って、それは当たり前か」
 と言ったので、ホッとする。
「僕も満点とは思わなかったよ、さすがに。……何で怒るの?」
「別に怒ってません。……私が優くんくらいのときなんて、全国模試とか、国語なんて平均ちょい上くらいだったからさぁ、満点取る人がいるなんて信じられなくて。しかも『僕自身満点とは思いませんでしたぁ』ってスカしちゃってさー」
「何だ。怒ってるんじゃなくてスネてたの?」
「スネてませんし」
 そう言って、採点された答案用紙をめくり始める。杏奈は国語は全く見ず、次の教科から見始めた。英語の解答用紙で、三角の部分点や不正解とされた理由を確認して、眉を顰め、心から残念そうな顔つきなる。
「英語はいくつかつまんないミスしちゃったねー……。過去形が『ed』になんないのは、もう憶えるしかないな。例えばご飯食べた後はいつもate、ateって呟くとか?」
「変な人だよ、それじゃ」
「中学生の杏奈センセイは変な人ではありませんでした」
「……やってたんだ」
 次の答案に移る。数学を確認する杏奈の目は更に真剣さを増した。一問ずつ、正解とされている解答についても、途中の計算過程も確認している。優也には聞き取れないごく小さな声で数字を呟き、赤ペンの先で空中に何かを書いて検算している。暗算している時の杏奈の集中力は並外れていた。優也は杏奈がこのモードに入ったときはいつも、邪魔をしないように静かに待っていた。集中している時には一段と美貌が冴えるから、それは横顔を鑑賞していられる時間でもあった。
 全ての問題を書き留めることなく頭の中だけで確認すると、
「よし……。まあまあかな」


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