とんだ大物-3
約1時間は歩いただろう。ようやく堤防の麓までやってきた。水死体は波打ち際まで運べた。しかし波に浚われてしまいそうな不安定な状態だ。せっかくここまで運んで来たのだ。どうせなら波に浚われる心配のない所まで運ぶのも自分の使命だと考えた海斗は思い切って堤防から砂浜に飛び降りた。そして恐る恐る水死体に歩み寄る。
「あーあ、しっかりフッキングしてるわ。」
ワンピースの縫い目の割と強そうな部分に針が引っかかっていた。餌はもうついていなかった。
「まさか食った訳じゃないよな…。」
そう言いながら震える手で針を外した。
「てか、美人だな。まだ若いだろうに…。可哀想になぁ…。でも普通、水死体って言ったら水飲んでブヨブヨしてそうなもんだけど、やけに美しいな…。天は相手によっちゃあ二物も三物も与えるんだな。美人には死んでまでも四物まで与えるのか。美人は得だな…。」
不意に頬に手を当ててみた。するとあまりの体温の低さにゾクッとした。
「つ、冷めてぇよぉぉ!何だよぉ!やっぱ死んでるよぉ…!」
ビクビク震える。尻餅をついた海斗に波がかかる。
「ヤベぇヤベぇ、こっちまで浚われちまうわ。早く運び出さないと…」
しかしリアルな死体の冷たさを体感したばかりの海斗は再び体に触る事に怯える。
「やだよぉ…。死体に触りたくねぇよぉ…。」
半べそをかきながら再び波に打ちつけられた。
「クソッ、しょうがねぇ。俺も釣りキチだ。一応獲物は最後まで責任を持って成仏させてやんないとな。」
頬を叩き気合を入れる。海斗は意を決して水死体の両脇から手を入れ羽交い締めするかのような体勢で水死体を引っ張る。
「ナンマイダー、ナンマイダー!ナムー、ナムー!」
延々と口ずさみながら砂浜を引っ張って行く。
「まるで俺がこいつを殺して遺体を引っ張ってるみたいじゃんかよ…。」
思わず周りを気にするが、こんな台風の中、誰もいやしない。とりあえずようやく波に浚われる心配のない場所まで来た。
後ろ向きに歩いてきた海斗。何かに躓き尻餅をついてしまった。
「痛っ!!どぅわっ!!」
体の上に水死体が乗っかり、髪の毛が顔にかかる。
「ヒー!ヒィッッ!!」
完全に取り乱し慌てて髪を払い除ける。
「やべー!!」
海斗は水死体から逃れようとする。そして思わず胸を掴んでしまった。
「…。」
無意識に動きが止まる。恐怖がすっ飛んでしまった。
「…なかなかいいオッパイしてんな…。」
もはや水死体だという事すら忘れている。モミ、モミ、と2、3回揉んだ後に我に返る。
「てか死体だろうが!!」
慌てて手を離して死体から体を逃した海斗だった。