釣り命!!-1
夕方の17時50分。スポーツ用品の卸業、「FEELD」という企業の事務所内。ある男が18時の退社時間を今か今かと待ちきれずに何度も時計を見ている姿があった。葛城海斗…、33歳の独身社員だ。明るく陽気な性格で業績はいい。しかしどこか変わっている事から周りからは変人と呼ばれていた。マイペース、周りを巻き込む…日常茶飯事だが、その明るく陽気な性格で不思議とみんなに好かれるタイプだ。そんな海斗を見かねて部長の安田孝が話し掛ける。
「おい、明日は台風だろ?それでも…」
海斗は話を最後まで聞かない。
「行くんです!俺は明日の為にこの1週間、日曜も仕事して頑張って来たんです!明日は誰が何と言おうとも…、俺は行きます、釣りに!!」
あまりの熱さにもはや呆れる。そう、海斗は自他ともに認める釣りキチなのだ。釣りが好きで好きで仕方がないのだ。今日は残業せずに明日の釣りに備え釣具屋で道具と餌を買いに行く予定だ。
6時になった。
「じゃ、お先っす!!」
6時になり5秒後にはもう居なかった。そんな海斗を社員は唖然として見つめていた。
「あいつの釣り好きはどうにもならんのか…?いい歳して女っ気なし。いい加減結婚して落ち着いて欲しいものだ。おい、幸代!お前あいつと結婚してやったらどうだ?」
いつも営業に同行している田崎幸代に言った。
「い、嫌ですよ…。海斗さん訳分かんないんですもん。いつも釣りの話ばっかで、サビキが何だか棚がなんだか潮目がなんだかしか言わないし。たまに違う話するかと思いきや風俗のエッチな話だし。最悪ですよ!」
「何だ、お前風俗の話を聞いてるのか??」
「だって嫌だって言っても勝手に話し出すんですもん。マットプレイがどうだの何だの…。」
「お前がそーゆー話を大人しく聞くとはな。やっぱり海斗に気が…」
「ありません!!」
「そ、そうか。でも明日はデカい台風来るんだよな…。さすがに心配だな…。」
そう言う安田を無視するかのように幸代は帰る。
「お疲れ様でした!!」
不機嫌そうに帰って行った幸代に溜息をつく。
「似てるんだよなぁ、あいつら…。」
溜息をつきデスクに座った。