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THE 変人
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釣り命!!-2

 幸代が表へ出るとすでに台風の影響で雨風が酷くなっていた。車を運転するのも何か嫌になるほどの荒れ模様に、ちょっとだけ海斗が心配になる。
 「いくら何でもこんな中で釣りに行くほどあの人も馬鹿じゃないでしょ…。」
しかし少し考える。
 「いや、馬鹿なのよねぇ…」
釣りとなると全く周りの見えなくなる海斗だ。台風だろうが何だろうが関係ない。きっと今頃釣具屋で餌でも買っているのだろうなぁと思いながら電話をかけてみた。
 「どうかしたか?」
電話どころではないといった感じでぶっきらぼうに電話に出た海斗。
 「海斗さん、今釣具屋ですか??」 
 「ああ、そうだよ。あ、ちょっと待ってな??」
海斗はどうやら店員に注文を出しているようだ。電話の向こうから餌に拘る海斗の声が聞こえる。
 「おねーさん、そんな細いんじゃなくてもっと太いイソメを入れてくれよ!細いのはダメだ!太いのこそデケ〜魚が釣れるってもんよ。魚も女も太いのが好きなのさ!おねーさんだって太いのが好きだろう?ガハハ!!」
馬鹿笑いとセクハラまがいの言葉に頭が痛くなる幸代。
 (ホント、馬鹿…)
らしいと言えばらしいが、とても30歳すぎの社会人とは思えない海斗が恥ずかしい。
 「で、何だ?」
深く溜息をついてから喋る幸代。
 「明日、本当に釣りに行くんですか?」
餌まで買っているのだから行かない訳がないと思いながらも一応聞いてみた。
 「お前、俺の性格知ってんだろうが!?行かない訳がないだろ!」
知ってはいたものの少しイラッとする幸代。
 「だって台風ですよ!?釣れる訳ないじゃないですか!?」
 「んなのやってみなきゃ分かんね〜だろうがよ!」
 「てか釣れる釣れない以前に危ないでしょ!?」
 「釣りで死ねるなら本望だわい。」
こうなるのは分かっていた。しかしやはり心配だったからわざわざ電話していると言うのに無神経な海斗にますますイライラする。
 「(ったく、人がせっかく心配してあげてるって言うのに!)ハイハイ、そうでしたね。分かりました〜、もう電話しませんから!じゃあお気をつけてクジラでもマグロでも釣って来てくださいね〜。」
そう言ってスマホを耳から話し画面を見て電話を切ろうとした瞬間、海斗の声が聞こえた。
 「幸代〜、心配してくれてありがとな!」
ハッとしたが通話終了ボタンを押してしまった。幸代はその言葉にもう一度溜息をつく。
 「卑怯者…」
いつも失礼ともとれるような言葉で会話したり、いつも人をからかってくる。しかしどこか自分に対しての思いやりを感じさせるのがまた海斗だった。その小さな小さな思いやりがあるせいで幸代は海斗を嫌いにはなれないのだった。
 「死なないでね、海斗さん…。」
すでに画面の暗くなったスマホを額に当てて目を閉じた幸代だった。


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