女であることを忘れていた女-2
「うあああっ!!!」
泣き叫び、暴れ、手当たり次第に物を投げつける私は、気が狂ってしまったのかもしれない。
いや、いっそのこと何もかもわからなくなるくらい狂いたくなった。
安らげる家庭を作ろうと、家事も育児も頑張ってきたのに。
その全てを壊された私は、ひたすら暴れるしか出来なかった。
ゴミ箱が倒れ、中のゴミが散らばる。
本棚に収めた本もCDケースも無理矢理引き出して叩きつける。
もしかすると輝くんが大切にしているものもあったかもしれない。
でも、壊してやりたかった。
大切にしてきたものを壊された私は、輝くんの大切にしているものを全て壊してやりたかった。
◇
ひとしきり暴れて、身体が少しクールダウンしてくると、電池切れになった私は、ガクンと膝から崩れ落ちた。
怒りの次に押し寄せるのは、惨めな自分に対する悔しさと悲しみだ。
「……っく」
涙がポツリと、まだ掃除機をかける前のざらついた床に落ちた。
私の何が悪かったんだろう。
昔からそれなりに容姿に自信はあった。
以前働いていた職場でも、お誘いはしばしばあったし、合コンなんかでも、誰かしら気に入ってくれて、デートに誘われたり。
結婚すれば、確実に今よりも上がった生活レベルを送らせてくれるであろう男も言い寄ってきたことがある。
そんな引く手あまただった私が輝くんを選んだのは、彼が誰よりも真面目で、温かい人柄だったから。
この人となら幸せな家庭を築けるって確信したからだった。
貧乏家庭で育った私は、働きづくめの両親とはあまりコミュニケーションを取る機会がなく、いつも一人で出来合いの惣菜をおかずに、寂しい夕食を取ることが多かった。
大好きなカレーも、一人で食べると全く味気なくて、狭いはずの団地もやたら広く感じたっけ。
いつか自分が結婚して子供が生まれたら、こんな寂しい夕食を取らせる真似なんてしたくない、ってそんな思いばかり強くなった。
温かい家庭に人一倍憧れを持っていた私は、結婚願望の強い輝くんと結婚出来て本当によかったと思った。
真面目すぎて面白味のない所もあるけど、家族を大事にしてくれる彼にはいつも感謝していたし、私も家族のために一生懸命頑張ってきたのに……!
ふらふら立ち上がった私は、そのまま座り心地のよいチェアーに座り直して、ディスプレイを睨む。
そこには喘ぎ声が聞こえてきそうなほど、艶かしい表情を浮かべてこちらを眺めている女がこちらを見ていた。